(※台詞ほぼナシ)
ーー 向かい合う少年少女の身長差、約30センチ。
「…」
『…』
狢坂高校男子排球部の部室前、三年生の雲南恵介は"今日も"やっていた。女子排球部の二年生正セッター、七泗はなこを無言で見下ろし、道を塞ぐという最近自分の中で流行っている遊びを。
「お、でた、190cmに見下ろされる160cm」
着替えて部室から出てきた、同じく三年の蝦夷田は、その見慣れた光景に驚くこともなく、見たままのことを口にする。
『馬鹿にしないで下さい蝦夷田先輩、はなこは今年161センチに到達しました』
むすっとした顔で言い返すはなこに「おーそれはよかったな。恵介に1センチ近づいたな。あと29センチ頑張」といって手を振り、蝦夷田はその場から去った。なんて適当な。
残されたのははなこと、未だに見下ろしてくる雲南だけ。はなこも負けじと真顔で睨み返すが、雲南には全く功を奏していない。
狢坂の正セッターに選ばれるようになってから、事あるごとに三年の雲南に道を塞がれ見下ろされたり、授業の合間にたまたま体育館で会って「サーブ打ってみて」と言われて、先輩に見てもらえるなんてと思って打ったら、思いっきり真顔でドシャットされるし ーー
こんな風に意地悪をされるのはきっと、
彼に比べて自分が30センチも背が低いからに決まっている。つまりそう、なめられて馬鹿にされているんだ!そうに違いない!
だから こうやって道を塞がれて見下ろされても、絶対に先に目をそらないと決めた。
「…」
『…ま、負けませんよはなこ。雲南先輩が190センチでも、全然怖くないですから』
嘘、本当はこわい。
190cmの身長、フィジカルトレーニングに力を入れた男子バレーボール部のMBに、何を考えているかわからないクリクリの目で見下ろされ続けるなんて。
『……………やっぱり…こわい、です』
はなこは正直に白状して俯くと、頭上から「ふ」と笑う声が聞こえた。顔を上げてもう一度雲南を見上げると、彼は口角を上げて笑っていた。
そしてはなこの頭に大きな手をポンと置くと ーー
「かわいい」
と満足げに言うのであった。
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