×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


オリエンテーション合宿9


クラス対抗球技大会、種目はバスケットボール。トーナメントは体育委員が引いたクジで決まった。
治、角名、はなこのいる二組と、侑、銀島のいる三組は、初戦で当たることになった。

「まずは治くんと角名くんと、それから野球部の〜」

「女子は誰が出る?最低二人は出なあかんからな」

「向こう侑と銀島は絶対出てくるから、上手いヤツがええな」

メンバーと作戦を決める二組の輪の外で、治は内心「こんなかで運動神経ええ女子はなこしかおらんやろ」と、入学からまだ10回もしていない体育の授業の記憶を掘り起こしていた。

「委員長出る気マンマンじゃね」

「それな」

「ウチってバレー部と吹奏楽部以外フツーだし、それで考えると女子枠一人ははなこ確実じゃね」

「入れる気はなさそうやけどな」

ゼッケンを抱えたはなこが二組の元へ戻ってくると、三組の方から歩いてきた侑が現れ、はなこの肩に腕を置いた。

「なーなー、そっちの女子、はなこ出してや」

そう言ってニッコリ笑う侑の企みが分かっているのは、治だけだ。はなこはゼッケンを抱えたまま、前を見ている。

そして侑はその笑顔のままでこう続けた。


「…で、もう一人は委員長さんで」


えっ、まじで!?
侑くんから言うてきたってことは…!?
脈絡あるんちゃう!?

ーー などと、女子が一気に騒がしくなる。
治はそんな光景に、アホやろこいつらと呆れている。指名だけで言えば先にはなこの事も上げている。それに、侑のこの笑顔ほど怖いものはない。






二組と三組の代表選手が一列に向かい合って並び、挨拶をした。はなこの向かいには、体育館に入る前にはなこを囲んでいた女子軍団にもいた二人が、ニヤニヤと笑いながら立っていた。

「シャース」

両チームが頭を下げて、反対側に回るその時
ゆっくりと歩く侑の前を、明らかに何かを勘違いした嬉しそうな顔をした、二組の委員長が通る。

「あ、侑くん…手加減してや?」

「手加減?」

侑がニッコリ笑顔でその横を通り過ぎるその瞬間、ポケットに手を突っ込んだまま背中を曲げ、委員長の耳元でこうささやいた。

「お前にはせぇへんで」

「…ッ……!?」

ジャンプボールは侑vs治。
双子は今回、互いの勝負はもちろんだが、共通の目的に対して共戦する気マンマンだった。バレーでもそうだが、そうなった二人に敵はいない。

ーー ダンッ。

治が飛ばしたボールを、すぐさまキャッチし、ドリブルしながら走り出したのは角名だった。
バレー界ではセンスのかたまりと言われている彼のドリブルやボール運び、敵のかわし方からもそのセンスが伺える。

角名がシュートしたボールは見事に入り、二組のチームメイトはハイタッチをし合った。

委員長は、開始前に侑にゾッとすることを言われた"ような気"がしているが、自分をターゲットにされただけだと未だ勘違いをしたまま、治に駆け寄り「治くん、ナイス!」と両手を出した。

「はなこ、銀止めてきて、俺ツム止めてくるから」

治は委員長をガン無視して、自分の横を通ったはなこに手を出し、いつもの部活のようなノリでタッチしながら指示を出した。

『えー、180センチ越えには180センチ越えやろ、倫ちゃんに頑張ってもらわな』

「倫ちゃんは点獲り係」

『…………逆じゃない?倫ちゃんディフェンスで、はなこが点じゃない?』

治の無茶振りに笑うはなこは、委員長が治のとなりで苦笑いしているのは見てわかるが、治が彼女を無視しているとまでは知らなかった。

治ははなこが銀の元へ行くよう、「行け」とはなこの背中を押した。

『無茶サム……』






見事に銀島からボールを奪い、尚且つドリブルしながら走ってきたはなこ。しかし、侑に捕まりそうになったので、とりあえず一番近くにいた委員長にパスする。

ーー その瞬間、ニコリと侑が笑ったのは誰も知らない。

委員長は慌てふためきながらも、不器用なドリブルをしながらゴールへと走る。
おかしなことにその瞬間、彼女をマークするのは隣のクラスの女子二人だけで、身内は誰も手助けに行かなかった。

ーー いける。

委員長がゴール下から放ったボールは、たしかにゴールに入る軌道を辿っていた ーーー はずだった。
ーー パシュッ…ドン…!!
あと少しでゴールにボールが入りそうな所で、突然走ってきた誰かがそのボールを叩き落とした。

「っ……!」

ーー それをしたのは侑だった。
侑がはたき落したボールは銀島がキャッチし、それを角名が奪おうと手を伸ばす。

この時委員長は、時間が止まったような感覚を感じていた。ドリブルの音や、外野の応援の声、隣のコートで選手が走る音や、笛の音は聞こえるのに、まるで蛇に睨まれた蛙のように、その一瞬の間、体が動けなくなっていた。

なぜなら、数メートル先で冷めた目をした宮侑が、自分を睨んでいたからだ。

ーー 恐い とおもった。

「あつ…む…くん、ウチ、侑くんになんかしたっけ…?」

「スッカラカンの豚の脳ミソにも分かるように言うといたるわ」

侑はわかっていた。この女がはなこに余計なことをした主犯に違いないと。万が一今回の、大切なマネージャーであり、実質幼馴染のはなこが頭や服を雨で濡らしてきた件の主犯でないにせよ、この喧し豚は今後そうなりうる存在で間違い無いと。

双子がこういう輩を粛清する時、はなこには言わず、分かる所でも分かるやり方でも絶対にやらなかった。ーー はなこが居ない、もしくは気づかない所で粛清をする。それが昔から二人の中にある暗黙のルールだった。

「手出す相手は選べ。な?お前らがやったことは俺らに手出したんと同義や」

そう言って、次の瞬間にはいつもの表情に戻り、チームの方へ戻っていた侑に、委員長はただただ立ち尽くすことしかできなかった。




試合は僅差で三組が勝った。結局いつも通り双子は試合が終わってもいがみ合っている。

ゼッケンを回収しているはなこが、クラスの女子と話している委員長のところにも回収しに行くと、知らぬ間に双子がはなこの背後にいた。

『ゼッケン、ちょうだい』

「!…あ」

「委員長さん、ちゃんとみんなにも言うてくれた?俺がさっき言うたコト」

当たり前のようにはなこの肩に寄りかかりながら、侑がニッコリと笑えば、委員長以外の女子が「え?なんの話?」「なになに?」と気にし始める。

体操ズボンの両ポケットに手を突っ込んだ治もはなこの頭に顎を置き、黙って女子軍団を見下ろした。ちなみに治はさっきの試合で、この女子軍団の頂点に立つ、委員長のハイタッチをガン無視している。

「あ……あとで、言うとくから、」

『?……なんの話?てか、重いねんけど』

「頼むで」

そう言ってはなこから離れ、歩いて行った侑。
治は、はなこの頭に顎を置いたまま、少しだけ女子軍団を見下ろした状態を続け、それからゆっくりとはなこから離れた。

そして治もはなこも侑の後をついて行った。

「ハナは俺らに感謝しなアカンなぁ、サム」

「せやなぁ、ツム」

『倫太郎さん、ゴリラ語の通訳して下さい』

「あーゴメン、俺ゴリラ語まだ理解できてないから」

「ァア"!?誰がゴリラやねん!」

「さっきタオル貸したった恩も忘れたんかこの地雷女。表出るか?」

「地雷女はヒデェ」

『いや、女や思てるだけマシや思わな、やってけん』

「強」