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テスト期間15-北編


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時刻は16時過ぎ。
この時期は陽が落ちるのが早い。真っ暗になってから帰っては、親御さんを心配させてしまうと案じた祖母に北も同感した。

「またいつでもおいでな。待っとるから。
ほんなら信ちゃん、はなこちゃん頼むで」

「うん」

『はい、また来させてください。それじゃあ…お邪魔しました、失礼します』

照れ臭そうな顔で挨拶したはなこに、少し寂しそうな顔の祖母。別れ際を長引かせても余計に寂しくなるだけだと思い、北は「ほな、行こか」と先に歩き出した。




『すいません、送ってもらって…また学校の方戻る事になっちゃって』

「かまへん」

肩から下げるはなこのスクールバッグの中には、今日編んだ臙脂のマフラーと毛糸、そして沢山の干し柿が入っている。

はなこが来ると決まった時点で送るつもりでいた北は、家を出るときに部屋着からウィンドブレーカーに着替えている。はなこを送ったあとはランニングしながら帰るつもりだ。

「楽しそうやったな」

『はい。ホンマにありがとうございました。私、おばあちゃんちっちゃい頃にどっちも亡くしてて…なんか自分のおばあちゃんみたいで、おばあちゃんおったらこんな感じなんかなって、ホッコリしました』

「そうか」

それを聞いた北は、自分と真逆だな思った。
なぜなら北は小さい頃から高校生三年生の今まで祖母に可愛がって育ててもらっているからだ。
もしも 祖母がいなかったらと思うと、自分を構築する大切な何かにスッポリと穴が開くような、恐怖にも似た感情になった。

「また、いつでも遊び来たらええよ」

同じ部員でも、男子相手と女子相手でほんの少しだけ口調や語尾が柔らかくなっている事に、北自身はきづいていない。無意識的だった。

「ばあちゃんも喜ぶわ」

寒空の下、真顔でそう言った北に『ありがとうございます。…でも、北さんは迷惑やないですか?』とはなこは問う。
そういうことを思う人でないことは分かっている。でも、北の家にお邪魔しておきながら、祖母に編み物を教えてもらい、直接北に用があるわけでもないのに帰りはこうやって送ってもらっている ーー それを考えると聞かずにはいられなかった。

「なんで?」

しかし北から返ってきた返答はやはりいつも通りだった。その言葉は、何故なのか?という疑問ではなく、もっと基本的で根源的な考えのもと発せられていた。「夕方に一人で帰る女を男が送るんは当たり前やろ」くらいの、根本的な。
寧ろ北は今、迷惑って何?どうしたらその考えになんの?くらいの顔をしている。

『いやー…、北さんのおばあちゃんにマフラー教わり行って、北さんと遊んだとかちゃうのに、…その、送ってもらって………わ、悪いなって…思って………』

はなこの言っていることが理解できないとでもいいたげな顔で、キツネのように目を大きく開いた真顔の北に、はなこの声はドンドン小さくなっていく。

『いえすいませんなんでもないですごめんなさい』

完全に余計な心配だったと分かったはなこが北の視線とオーラに恐怖しながら一気に謝ると、「フハッ」と吹き出した北が笑う。

「迷惑とか思てへんわ。寧ろ、今年は俺のばあちゃんから来て欲しい言うて、日程もあるけどその次の日に来てくれたんや。せやから、ありがとう言うんはこっちやで」

いつもだれにも見せないような優しい顔でそう言った北からは、冷徹で笑わない人と勘違いされやすい北の本当の人柄は勿論、祖母をとても大切にしていることが伝わってきた。

「また、来たってな」

『……はいっ』




ーー 余談

「楽しかったわあ。おばあちゃんばっかり話してしもたなあ。ほんまにええ子やわ」

「うん」

「また来てくれるかなぁ」

「…また来たい言うとったで」

「ほんまにぃ!?ほんなら今度はご飯食べてってもらわなな。よろしゅう言うといてな、信ちゃん」

「うん」

〜 その1時間後 〜

「ああ、信ちゃんお風呂おあがり。あんな、今結婚式の特集やっとったんやけどな、男の人の服がめっちゃかっこよかったわ〜。ウェディングドレスも可愛らしいてな」

「…うん。…ばあちゃん、風呂入ったら」

「信ちゃんが着たらよう似合いそうやったわ〜。色やな、色がよかった」

「…うん」

「あのウェディングドレスも、はなこちゃん着たら絶対似合うで。あんまり派手な感じやなかったから、はなこちゃんにピッタリや」

「うん」

「あ、ほらほらほら今映っとるドレス。ああ、でもこの人もべっぴんさんやけど、はなこちゃんの方がシュッとして可愛らしいわ」

「………せやな」

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