テスト期間3-登校編
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先頭を三年生ふたり、そしてその後ろに二年生たち。稲荷崎高校バレー部員たちは、狭い歩道をぞろぞろと連なって歩いた。朝練なしの投稿時間とはいえ、北がいるとそれだけで空気は緊張感に包まれる。
その張りつめた空気を和らげるように、尾白が「せやけど、ちゃんと授業聞いとってもド忘れすることもあるやんか」と話し出すと、北はしばし考えた後にこう聞き返す。
「自分ちの住所も、ド忘れすることあるんか?」
「するわけないやろ」
アホらしいとでも言いたげな尾白の顔を見て、北は続ける。
「前の日に慌ててやっとるから、身につかんでド忘れするんや。毎日反復しとったら忘れへん。そもそもテストゆうんは、今どれだけ分かっとるかを計るための指標やし、やっぱりテストのために一夜漬けするとか意味ないと思うわ」
はっきりそう言いきった北の周りで、登校中の他の稲高生徒たちまでもがギクリと顔色を変える。彼らの顔もまた、眠たそうだった。
『確かにそう言われてみれば、そうですよね。結局前日の睡眠時間削って勉強して、寝不足でテスト受けたところで集中力落ちるだけやし』
「やろ」
部内でも珍しく北の意見に賛同し、北と似た考えも持ち合わせるはなこは、こう見えても部の二年生の中で一番成績が良い。
さっきまで後ろで侑の悪口を言いながらやいのやいのと二年生で話していたはなこが急に北の意見に賛同したので、尾白は「出た、ド正論コンビ…」と何も言えることがなくなってしまった。
「せやねん!」
『……………なにが?』
すると、突然侑がその会話に入ってきた。
それまで「チーズタッカルビ?チーズダッカルビ?どっちが正解やねん」「知らんわ、そもそもなんやねんそれ」などと、治とふたりでまるで関係のない話をしていたのだが。
「せやねん!意味ないねん!」
侑はもう一度繰り返し、みんなの視線が集まっていることを確認すると、胸を張ってこう言った。
「せやから、俺はわざわざテスト勉強とかせえへんのや!!」
有無を言わせぬ勢いの侑とは真逆に、治はダルそうに返す。
「せやな、ツムは授業中ずっと寝とるわけやし、テスト中も、実力発揮でしっかり寝とったらええわ」
『えーそれはなこが怒られるやつやん…』
「言われんでも寝とるわ!!」
はなこの言葉など全く耳に入っていない様子で、何故か偉そうに言い返した侑に「威張んなや!」と反射的に尾白が突っ込むが、「せや……」と何かを思い出したような顔でガックリと肩を落とした。
『どないしたんですかアランくん』
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