キツネのお正月10
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一方、双子と喧嘩して帰る途中だったはなこは家にまっすぐ帰る気にもならず、前に二年生何人かで遊びにいったショッピングモールに通じる商店街を何となく歩いていた。
普段は鄙びているとまではいかないが、そこまで大繁盛しているわけでもないこの商店街は、元旦でいつもより盛り上がっていた。
ポン菓子が出来上がる音や、抽選券でガラガラを回してカランカランと当たりが出たことを知らせる音が聞こえる。
「あれ、はなこじゃん」
なにか回して帰ろうかなと足を止めて辺りを見渡していたときだった。聞き慣れた声が横から聞こえた。
「ほんまや!一人でなにしとん?あっ、あけおめ!」
大きな景品を片手で軽々と持ち、人混みの中から歩いてくるのは、その中でも一際背の高いウインドブレーカー姿の角名倫太郎と銀島結だった。
まさか元旦早々、同い年の部員にこんなところで会うなんて思ってもみなかったはなこは驚く。
銀島につづいて角名も「あけおめ」とはなこに短く挨拶した。
『あ、うん あけおめ。今年もよろしく』
「なんで一人なん?侑と治は?」
今まさに喧嘩してきた二人の名前が出て、はなこは一瞬言葉に詰まるが、はっきりと言った。『元旦早々喧嘩した』と。
「ッハ!またアイツらなんかやらかしたん?」
「縁起悪」
『もーほんま聞いて。ヤバイで。なにがヤバイってこの話北さん出てくるもん』
思い出しながら割とマジな顔で話すはなこの話し方が面白かった角名は吹き出し、銀島に至っては内容を伝える前からすでに爆笑している。
「き…、フハ…っ聞きたい聞きたい!聞かして!」
腹を抱えて涙目の銀島の肩を笑い過ぎとはなこがはたく。
「てかさ、どうせ話すんならどっか入ろ。立ちっぱはさみぃ」
「せやな!はなこのめっちゃおもろい話ちゃんと聞く場所用意したらなアカンな!」
未だに笑っている銀島に、笑い過ぎだろと言いつつも釣られて笑う角名。
『もー。笑い話やおもったら大間違いやねんからな』
あの北もいたんだ、相当な一悶着があったのだろうと心中を察する銀島と角名。しかしそれで笑いがおさまるわけではなかった…。
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『てか、倫太郎それなんなん。景品?当てたん?』
「あーうん。俺と銀の親が福引の引換券死ぬほど持ってて、引きに来たら当たった。なんだっけ?」
「たしかマイナスイオンドライヤーやな!なんかええやつらしいで。女の人めっちゃ欲しがっとったのにコイツ真顔で持ってったからな!」
「だって当てたの俺だし」
『へー、凄いやん。倫太郎髪あるしな』
「でも家にドライヤー新しいのあんだけどね」
「ええやん貰っとけや。俺なんかポケットティッシュやぞ」
『んじゃあ倫太郎に奢ってもらおっか』
「せやな」
「はい黙れ」
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