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歪ませようか
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「やぁ。先に始めてるよ」


___________築地のとある高級寿司屋個室。
はなこは予定より少し遅れて到着。折原は既に個室で本日の刺身盛を堪能していた。

カウンターを選ぶのが普通かもしれない。
しかし周りに聞かせられない話をする男と、あまり目立たせられない女がいるので必然的に個室に。


『すいません。粟楠の赤鬼を豆で撃退してたら遅くなりました』

「君が豆なんて可愛らしいモノ持ってるとは思えないけど、取り敢えず季節外れの節分ご苦労様ということにしておこうか。
サーモンの刺身と握り。あとは適当に頼んであるよ」

折原は他になにか頼むならと、和紙に筆で丁寧かつ荒く書かれたメニューをはなこに渡す。はなこは大丈夫ですと答えた。

はなこ以外で彼が二人で食事をするとすれば、矢霧波江と事務所で軽食を摂る程度だろう。その矢霧と外食に出掛けることはない。もっとも彼女は逃亡中の身故に、相手が折原であろうとなかろうと外食は殆ど避けているのだが。

つまりはなこは彼にとって駒でもなく仕事相手でもない特別な存在である。

「で?粟楠会の幹部になにヤらかしたのさ」

頬杖をついてニヤリとはなこを見つめる折原。同時に注文した寿司が部屋に運ばれてくる。

『ちょっと臨也先輩。なんでヤらかしたことになってるんですか?"撃退した"ってことは先に何かされたって普通思いません?』

店員が注文の品をテーブルにおいて部屋を出る。はなこは折原の決めつけ発言にムスッと口を尖らせながらも『いただきます』と両手を合わせて箸を手に取った。律儀。

「思わないね。
俺は直接話したことないからよく知らないけどその人結構昔からはなこのこと気にかけてるみたいだし。…例えば心配させるようなことを目の前でやった___________とか?」

『____________。
知ってるし…。いつどこで調べたんですか』

「さぁ?
……………わかったからそう怒るなよ。綺麗な顔が台無しになる。_________まぁ怒った顔は珍しいしいから俺は好きだけどね」

『人の顔で遊ばないで。
それよりまた絡まれたんですよ?臨也先輩がフッた女子の友達の”ダラーズ彼氏”。この前より人数多かったです』

「通りで俺になにもしてこないわけか」

『そもそも先輩は探して見つかる人じゃないから私っていうのもあるんでしょうけど。会ってみたら面白そう』

「客ならともかく、目的と怒りの矛先が歪んで変わっている事にも気付けない連中に会う程俺は暇じゃないよ」

ですよね、と相槌をうって
楽しみにしていたサーモンを口に運ぶ。

『…その時海月さんがたまたま来て
______…あの人殺気だけで追い払っちゃいましたよ、ダラーズ軍団』

「ふうん。粟楠会きっての武闘派らしいじゃないか」

『そこで私が物理的に追い払おうとしてたのを止められました。一応脅したんですけどやっぱり通じなかったし、あの人さすがです』

さすがと言うならはなこもだけどね、と話を聞きながら折原は思う。身長が190近くあり、黒スーツにサングラスという如何にもな格好をした赤林海月は、池袋を束ねる粟楠会の幹部だ。粟楠会きっての武闘派を脅したことも、そして脅したんですけどと普通に言うところが彼女のブッとんだ所のひとつでもある。

…そういう家にそういう風に育てられたから仕方ないとも言えるが。

「なにか言われたみたいだね」

折原のそれは疑問というより確信に近かった。彼女の雰囲気が何時もより丸いような気がしたからだ。

『その綺麗な手を汚すなって言われました。心配だから…って』

思い出しながらそう言った彼女の顔は、ほんの少し緩んでいた。第三者が普段のはなこと今のはなこを見比べても分からないだろう。しかし折原臨也にはハッキリとわかっていた。彼女が”彼”の影響を受けて変わろうとしている、と。

「…」

____________それが頗る気に入らなかった。
大きなお世話だ、とか余計な心配だとでも言うようにそんな事はないと言えたらどれだけ楽か。その男は、彼女の持ち味をなにもわかっちゃいない。

高い戦闘力を持ち、身体のいたる所に鋭利な刃物を隠し持っている彼女は正に歩く凶器といっても過言では無い。

けれどそうなるまでに至った理由は”自己防衛”。自身に降りかかる危険や痛みを誰よりも嫌い、自分を完全に守る為に護身術と武器を身につけている。

彼女は危険やスリルが大好物だと言う。

____________矛盾。

その矛盾こそ、折原臨也が彼女に惹かれている部分。だからこそ今の彼女を構成する物を取り上げるなど

「言語道断だよ」

『言語道断?』

「_____________なんでもないよ」


__________________歪ませようか。


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歪2に続く。




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