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待つ者のいない者
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はなこはなにかと上司であるロイ・マスタングに食事に誘われ、否、連れて行かれることが多かった。






はなこ・ヴェーダ。

数年前のイシュヴァール戦に当時投入された錬金術師の中でも最年少だった。

当時のはなこは国家資格を持っていない
ただの錬金術師だったが、身体中に張り巡らされた錬金術用の刺青と、両手のひらと足の裏に書かれた錬成陣を使い、ほぼノーモーションで強大な力を発揮することからはなこは、大総統閣下直々に推薦され、それを承諾した。

親や保護者の許可は必要なかった。
大総統はその足で直接孤児院を訪ねた。

はなこには家族と呼べる人がいなかった。






「焔の錬金術師がきたぞ!逃げろ!」


逃げまとまとうイシュヴァールの民を眼下に焔の錬金術師 ーー つまり、ロイ・マスタングが発火布を強く摩擦した直後だった。

ゴォオオオオとまるで生き物のような炎の進行方向に壁のごとく現れた水に阻み、そして炎を呑み込んだ水はバキキッ!!!と大きな音を立てて一瞬で凍りついた。

棘だらけの氷に包まれている炎だったものは、串刺しにされているようにも見えた。
最大火力に近い勢いで炎を放った本人のマスタングは何が起きたのか理解できずにいた。


「なっ………(これは錬金術…!?どういう事だ)」

『辛そうだから』


若い、少女の声が聞こえた。
驚いて振り返ったマスタングの背後には、返り血と怪我で身体中を血に染めた、自分よりもずっと背の低い少女がたっていた。


「君は…!大総統閣下が投入したという、氷の……それより何故止めた!?」


すでに人殺しの目になってしまっている少女の肩を揺すりながら、マスタングは必死に問う。


『辛そうだから』

「……!…………ああ、辛いよ。
どんな正当な理由があっても私がやっていることは大勢の人の命を奪う大量殺人と等しい。それだけじゃない。その理由のために、君のような少女を戦争に投入するなど…あってはならない事だ。
しかし、ここは戦場。躊躇うことはできない!」

『………なんだ、あなた優しい人なんだ』

「……!?」


自分は怒り、焦り、驚いているというのに
さっきからちっとも表情を変えない少女は、突然自分の隊服の袖を肘よりも上に捲り上げた。


「な……」


マスタングは絶句した。
少女の腕からビッシリと赤黒い色をした線の細い刺青が手首まで続いていたからだ。


『これと同じのが左手と足と背中にもある。だから私が住んでた孤児院が私を軍に引き渡して、ちょうど大総統にお願いされた』

「!孤児院……じゃあ君は、自分の意思で…」


保護者や親の同意もなく。


『うん』


少女はそこで笑った。それはあまりにもこの戦場には似合わない綺麗な笑顔だった。


『だから、辛いの、代わってあげる』


ーーー マスタングは絶望した。

何故ならこの少女は、
この戦場で自分より一回りも二回りも大人の軍人達に

「大総統直々に投入された錬金術師なんだから代わってくれ」と頼まれ続け、代わりに闘っていた。

大人達は皆口々に「自分には子供がいるから」「待っている女房がいるから」ーー と少女に言ったそうだ。

少女に待つ者がいない事を知って。


「ーー 代わってたまるか。下がっていろ」





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