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フードの男
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気づいたら、というか気づくのが遅れたと言うべきか。どうにもならないことを木の椅子に座って胃痛と共にぐるぐると頭の中で考えていたら、見知らぬ青年がしゃがんでいた。深くかぶった黒のパーカーフードから見えるのは青っぽい髪、白い肌…そして赤い瞳。よく見れば唇に裂けたような痕がいくつもある。

青髪の青年は無表情に近い、けれどたしかに心配そうな顔ではなこを見上げていた。

「大丈夫?通りかかったら顔色悪いし俯いてたから気になってさ」

『あ………あり、がとうございます…(?)』

はなこはこの時、なんとなく視線を感じた自販機の方を見る。…すると、なぜか三人くらいの派手な髪色をした若い青年が気まずそうに目を逸らしてその場を去った。
もう一度目の前でしゃがむ青髪黒パーカーの青年に視線を戻すと、青年は「ああ…」と言いながらはなこのとなりに少し間隔をあけて腰かけた。

「君に声をかけようとしてたから」

『追い払ってくださったんですか?』

「気分悪そうだったからね。やめといた方がよかった?」

『いえ、…本当にありがとうございます』

少し間隔をあけてとなりに腰かけた青年がチャラ男軍団から守ってくれたのには間違いない。とはいえこの青髪黒パーカーの青年の行動は謎だ。初対面で助けてくれたり、すごく親切にしてくれる人はコミックならアリだが、どう見たって彼はそういったキャラクターには見えない。

「可愛いから気をつけた方がいいよ」

ほんの少しの笑みと共に青年はそう言った。
落ち着いている。敵意もない。…けれど、何かが引っかかる。

『そんなことないです。あの、こんなこと聞いていいのかわからないんですけど…あなたは一人なんですか』

「うん、一人。俺も気分が悪くてさぁ」

できるだけ平静を装って探りを入れてみることにした。この距離、座り方、自分の髪のかかり具合、青年の目線……全てを一瞬で計算して、瞳だけを動かし周囲を見渡す。
"自分を"狙ってきたなら他に仲間がいるかもしれない。

実を言うと、コレがそうでないにしろ、そうであるにしろ命を狙われるのは初めてではない。結家は個性婚のみで作られた家。強力な個性を持って生まれた子らに後継候補決めをさせ、一番を作る。
実力の塊である一番と同じ学校や職場になった者、その実力に指一本触れることすらなく、斃されたヴィラン達______________……そういう人々に結家は相当な恨みを買っている。

「オールマイトっているじゃん。平和の象徴オールマイト。…君は彼をどう思う?」

『オールマイトを、ですか?…』

そんな質問をされると思っていなかったはなこは少し困る。雄英に転校して少しずつ前向きに変わってはいるものの、それでもまだ"ヒーロー自体に興味はない"ままで、自分がヒーローになるべきだとも、なりたいとも思えていなかった。

彼はオールマイトのファンか何かで、意見が聞きたい…それとも単純な興味なのか。よくわからない。

『………………すいません。私、正直ヒーローに興味がなくて…すいません』

________…なんて。
なんで他人に割と感情を込めて謝っているんだろうかと、言ってから後悔する。雄英生だと言う必要もつもりもない。けれど、あの雄英にいながらヒーローに興味もなければなりたいとすら思っていないなんて…。
そう思っていたら二度も謝っていた。

「なんで謝んの?」

青髪の青年は鼻で笑う。

「確かに今の時代、ヒーローって職業には誰もが憧れるもんだし、憧れなくても興味がないって奴はいないかもだけど」

『でも、平和の象徴とまで言われてるオールマイトにすら興味がないなんて…ちょっとダメですよ。…なんかすいません。オールマイト好きなんですか?』

笑うしかない。そんな自分は。
でも嘘もつけない。だってそれが本音だから。言われるがままに生きてきたから、中身が空っぽなんだ。

はなこがいつものようにへらりと笑っていたら、青髪の青年が自身の首に爪を立ててガリガリと?きむしるのが視界に入った。それは普段からの"癖"なのか、よく目を凝らせば首には無数の掻き傷がある。

『な、なんか…すいません…』

______________パシ。
慌てて、そして控えめに。
はなこは首に爪を立てガリガリと掻く青年の手の手首を、両手の指先だけで軽く掴んで止めた。その瞬間、赤い目とバッチリ目が合う。
一瞬だったけれど、その目は完全に苛立っていた。そこには完全に狂気があった。
はなこには分かった。この人も"普通じゃない人"なんだと。



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