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弱さを克服した男
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試験の話を終え、教室へと向かう。
そういえば一・二限目はヒーロー基礎学のはず。今日はなにをするんだろうなんて考えながら歩いていると、後ろから「はなこ」と名前を呼ばれる。振り返るとそこには轟がいた。
『焦凍くん、おはよう』
「ああ。そういえば昨日相澤先生が言ってたが、今回だけテスト別らしいな」
『うん。来た時期が時期だし、やってた範囲全然違うからって』
「演習内容も違うのか?」
はなこの隣に並んで歩く轟。付き合いは小さい頃からあるのに、こんな風に並んで会話するのははなこが転入してきてからのこと。懐かしさと新鮮さが混ざり合う。
『そっちの内容がわかんないからなんともいえないけど、私はプレゼント・マイク先生と戦闘演習。…あ、』
_____________内緒だよ。
人差し指を唇に当てて笑うはなこ。
「わかった。…でもなんでその先生なんだろうな。期末なら相澤先生かオールマイト相手にしそうなモンだが」
『私の個性がマイク先生の個性と相性が悪いからなんだって』
「…………たしかに。物理攻撃じゃねェ上に距離も間合いも関係ねェからな。なんか対策考えてあるのか?」
『そのことで焦凍くんに聞こうと思ってたんだけど』
轟は歩みを止めるはなこに反応して、はなこの半歩前で立ち止まる。この時のはなこの表情には"懐かしさ"を感じた。幼い頃から何度か手合わせした時の、相手をどう"倒すか"を考えている時の顔だ。
『先生相手にどこまでなら許されると思う?』
________…矢張り。
真剣で、真っ直ぐな表情だが見る者が見れば分かる。これは"殺気"……否、"殺意"だと。
_______________どこまでなら許されるか。
転入初日、ヒーロー基礎学でオールマイトとW鬼ごっこをした時見せた攻撃的な戦闘スタイルは嘘ではないが本気でもない。いや、本気ではあるが、"本気の種類が違う"というのが正しい。
試験だろうと訓練だろうと自分に牙を向ける者、危害を加える者を無意識的に恐れるが故に。
一種の自己防衛。
「相手はプロヒーロー。本気でやりゃいんじゃねェのか」
『そっか』
雰囲気が元に戻る。
再び教室へと歩き出したはなこに轟は言った。
「俺は体育祭で緑谷と闘って、抱えてたもん全部ぶっ壊された。けどお前は…まだ色んなもん抱えてんだな」
『………抱えてるとかじゃないよ。
でも焦凍くんがなんかスッキリした顔になってるのは、転入して来た日に見てわかった。凄いね緑谷くん』
「少なくとも俺はガキの頃のはなこと今のはなこを見て言ってる。深入りも詮索もしねェがなんかあったら言えよ」
『……………………うん』
弱さを克服して、進んでいく。
そんな強い彼に返せた言葉はその二文字で。
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