「やあ、面倒かけた」

案内された手入れ部屋。
そう言って呑気に茶を啜る三日月も鶯丸もあまりにいつも通りで、無事だと知らされてからもどこかこの目で見るまでは、と無意識に張り詰めていた糸がぷつりと切れた。

隣で主が安堵に崩れ落ちるのが見えて、つられてうっかり滲みかけた視界に焦って誤魔化すためにとりあえず一発殴ったのはちょっとだけ悪かったと思ってる。ちょっとだけ。



三日月は片腕を無くしているとはいえ両足は無事だったので、より重傷な鶯丸に肩を貸しつつB審神者 改め 紅花の本丸を後にする。

「なあ、個人用の端末は持っているかい?」

帰り際、何故か私にやたらと恩義を感じている紅花本丸の刀剣男士を代表して来たという鶴丸国永と連絡先を交換した。

何かあれば力になってくれるらしい。

「主の経歴は若いが、俺含め前任の刀剣男士はすでに顕現して長い。政府や他の本丸にも繋がりはあるからな」と。

正直なところそこまで重く受け止められると、なにをアドバイスしたんだっけというレベルの私からしたら恐ろしいんだが……物事の価値観はそれぞれなのでその気遣いは有り難く頂戴しておくことにした。

主のためにもツテが多いに越したことはない。

ただ、最後にそっと耳元で囁かれた忠告じみた助言が心に小さなしこりを残した。

「分かってるさ」

そう返したけれど、自分で理解しているのと他人から指摘されるのでは、威力が違った。

「分かってる。それでも俺は、」

俺は、主の刀だ。

まるで自分に言い聞かせるような響きになってしまったことに気付いたし、気付かれたけれど、鶴丸国永はただ、「そうか」とまるで仕方のない子供を見るような目で頷いた。
おもむろに撫でようと伸びて来た手は鶯丸によって叩き落とされ、キョトンとした彼は笑い転げたけれど。居た堪れないのでやめて欲しい。

「鶴が鶯の雛とは!!アッハハハ!」

ほんとにやめて欲しい。



本丸へ帰ると仲間達から盛大なお出迎えがあり、特に同じ部隊で「さあ行くか!」と振り向いたら二振りがいない状況だったあの日の遠征部隊の反応は……言うまでもないだろう。

練度低めで固められていた分、阿津賀志山の捜索にも加われなかった彼らの心労はいかほほどか。
改めて自分の衝動のままに凸ってしまった私の浅はかさを反省した。

大人ぶってもまだまだ若いな、とほけほけ笑う想像の中の鶯丸はアッパーカットで追い払う。おだまらっしゃい!


「鶴丸さん」

「おっお疲れさん主」

見舞いで賑わう手入れ部屋と、夕飯は二振りの好きなものを!と張り切る料理人たちの集う厨とは別に、一足先に祝酒を嗜む悪い大人の酒盛りに混じっていた私のもとへ主がやって来た。

ほらほら席を開けろ、と蛍丸が和泉守を蹴り出して空けた座布団に苦笑して座った主のお猪口に酒を注ぐ。

主も私たちのノリに随分と慣れたものだ。

弱いくせに飲みたがって一杯で潰れた隣の初期刀の頭を撫で、くいと煽った主は紅花の名前が加わった端末の名簿を見つめながら話を切り出した。

「彼女の本丸を見て、あれだけ軋んでいた関係が今は固く結ばれているのを知って、紅花と話して、仲良くなれるかもって思って。……もう今更遅いかもしれないけど、もう一度、話をしてみようと思ったんです。ちゃんと、話を聞こうと思うんです」

「……そうか。そっか。うん、君が、そうしようと思えたのならきっと遅いことはないだろう。たとえ今更でも、そう思えたことは必ず未来の君の糧になる」

表示されている連絡先のハ行。
その一番上には、“花形"の名前があった。
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