どうも。
担当から鶯丸たちがよその本丸で保護されたという知らせを受け、衝動的に政府に凸した挙句に電話口で騒ぎ担当に正座させられている鶴丸国永ですこんにちは。
「いいですか?稲葉様、鶴丸様。お二人の気持ちは分かりますが、親交のない本丸同士の連絡は担当が行うことになっています。なぜか分かりますか?はい稲葉様」
「エッあの、もしトラブルになった時に迅速に対処するため?」
「30点」
「さんじゅってん……」
「理由は様々ですし、あまり大っぴらに言えることではないですが、一例として言えば審神者の中にも歴史修正主義者のスパイがいないとは言い切れません。そういったことを見極め、審神者様を身内に潜む毒から守ることも担当の仕事なんです。花形本丸の時はあちらの実績が実績でしたからすぐに個人のやりとりを許可しましたが、今回の本丸はそうではありません」
「ごめんなさい、反省してます……」
「鶴丸様」
「はい……」
「主を諌めるのも家臣の仕事では?むしろ率先して来ましたよね?」
「誠に申し訳なく……」
二人揃って縮こまっていると、大きなため息を吐いた彼女はもういいですと言って立つよう促した。
「なるべく早く引き取りに来てほしいとのことなのでこれから行きますが、一緒に来ますか?」
「良いのかい?」
「むしろ向こうの刀剣男士の方からの要望です。鶴丸国永に会いたいと」
お知り合いですか?と聞かれるも生憎とんと心当たりはない。
審神者の名前も本人の了承無く伝えることは出来かねるらしい。
まあ私が名前を把握している審神者はそう多くないし聞いても意味なかったかもしれない。
「とにかく二振りを保護してくれたんだ。滅多なことにはならないだろ」
私たちは一度本丸に連絡を入れて、勝手に飛び出したことを改めて怒られながら件の本丸にそのまま迎えに行くことにした。
ゲートをくぐって最初に目についたのは立派な洋風本丸。
呆気に取られる私たちをこの本丸の一期一振が迎えに来た。
「うわ、ロイヤル×ロイヤル」
「絵本の国の住人」
「レイピアの付喪神」
「ははっよく言われますな」
本当に言われ慣れているのだろう一期は私たちの反応に柔らかく笑ってみせた。ロイヤルゥ
「こちらです」と先導する一期についてこれまた洋風な廊下を歩く。
「本丸って改装できるのは知ってたんですけど……ここまで変えられるんですねぇ」
「乱あたりは喜びそうだが、和装連中は浮くんじゃないか?」
というか私が浮いている。落ち着かなくてソワソワする。
「浮くのは刀剣男士だけではありませんぞ。改装しても手入れ部屋と鍛刀部屋、刀装作成部屋。つまり妖精のいる、戦への関連が強い場所は初期のまま変えられないのです」
なのでこの洋風建築本丸も、そこだけは和風で浮いているらしい。
「改装も増築もやるなら計画的にお願いしますね。無計画に増築しすぎてウィンチェスターみたいになった本丸は数知れませんよ」
「ウィンチェスター?」
「ミステリーハウスか。それもそれで楽しそ」
「絶対やめて下さい」
ガチ顔じゃん。
「本丸は夢のマイホームじゃないんですよ。誰ですかわざわざ平成から慈しい鬼退治なんて名作引っ張り出して来たの」
とても恨みのこもった声だった。
無限城を再現しようとしたチャレンジャーがいたらしい。そのロマンは分かる。
なんて話しながら歩いていると、廊下の向こうに女性を見つけた。
隣に山姥切国広を連れた主とそう年齢の変わらなそうな女性だ。
洋風本丸で浮かないようにか主と違って洋装ではあるが、彼女がこの本丸の審神者だろう。
主はその存在に気付くとふいに足を止めた。
固まったままアクションを起こさない主を見かねて声をかければあからさまに狼狽えたので、何かあるのかとつい身構える。
そしてそんな私の後ろに隠れる……のではなく、逆に私を庇おうとするのだから驚いた。待て待て待て護衛の意味。
「主、どうした?」
一期一振にも山姥切国広にも敵意は無く、審神者同士を見守る姿勢なものだから私が刀へ手をかけて無駄に亀裂を産む訳にもいかず、何があるのかと問えば私を見上げた主の瞳は覚えてないのかと言いたげに見開かれていた。
「久しぶり、ね」
少し罰が悪そうな声色で審神者が言う。
一期が己の主へ小声で何かを促し、分かってる!と返す反抗期の親子のようなやりとりをすると、彼女は意を決したように頭を下げた。
「あの時は、ごめんなさい」