一人の男が隣に立つ加州に問いかけた。
「清光、あれをどう思う」
「うーん……グレー?」
『ブラック本丸』と呼ばれるものには様々な種類がある。
純粋に悪意なく、事情があったり運営が下手で資源がカツカツ、刀剣が少ない、などが原因で多くの本丸よりも過剰に出陣頻度が多かったり、一振りの刀剣男士にかかる負担が大きかったりという本丸も稀にブラック認定されるが、それをどうにかするのはほとんどの場合担当課の仕事だ。
監査部の取締り対象である『ブラック本丸』はそんな平和なものじゃない。
その多くはあまりに非道、非常識。罵倒や暴力に始まり昼食がまだである二人も食欲を底辺に落とすような所業の数々。
今思い出すのはやめておこう。
やっと確保できた半休なのだ。美味しいものをお腹いっぱい食べたい。
そんな二人の目の前に、気になる刀剣たちがいた。
鶴丸国永、鶯丸、長曽祢虎徹という珍しい組み合わせだ。
その中でも気になるのは軽傷を負う長曽祢虎徹。
「虎徹問題か?」
長曽祢虎徹が顕現されるようになって増えた監査部案件、長曽祢虎徹の冷遇か?と勘ぐってしまうのは職業病だろうか。
そう、何を隠そう彼らは監査部所属の役人である。
「長曽祢さんは贋作だけど新撰組局長の刀だよ?ていうか長曽祢さんに限らず軽傷とはいえあんな姿で万屋うろつく刀はいない」
「となるとどーせ手入れしてもらえないから諦めてるパターンか、自尊心を傷つけるためにわざと歩かされてるか。あーせっかくの休暇なのに!」
「はいはい。怪しい芽は早めに詰むに限るでしょって、あれ。絡まれてる」
「うわっ難民系ブラック予備軍じゃん顔覚えたぜ」
「あの鶴丸さん躱すの上手いね。相手には触らせないし触らない。術仕込んでくる危ないのもいるから良い対応だ……あの鶴丸国永って」
少し様子を見ていると助太刀に入る必要もなく、大した揉めずに解決したようだ。
進行方向にいた男と加州は長曽祢たちがこちらへ来たタイミングで声をかけた。
「こんにちはー」
「すみません、自分、政府の者なんですけどお話聞かせてもらえます?」
声をかけられた彼らはあまり驚いた様子もなく互いに目を合わせ、ホッとしたように声をそろえた。
「待ってました」
声が背後からも聞こえて驚いて、そこに前田がいたことにまた驚いた。
「驚いたかい?」
得意げにお決まりのセリフを言う鶴丸。
もしかして、目を付けられていたのはこちらだったのかもしれない。