自室、厨、執務室に厠まで探し回れど見つからず、
通りかがった大倶利伽羅に聞けば遠乗りに行ったらしい。どうりで。
早口に礼を言って玄関で靴を履き飛び出す。
この時間ならちょうど第四部隊の遠征帰りと重なるから、ついでに資源を受け取って部隊員を休ませようとするはずだ。
そう当たりをつけてゲートに走れば、そこには思った通り、部隊から資源を受け取って馬に乗せる作業中の仲間たちがいた。
走ってくる骨喰にいち早く気付いたのは偵察の高い堀川だ。
少し遅れて他の刀が気付き始める。
そして積み終わった資源をしっかり固定し、最後にこちらを振り返った金の瞳と目があって……骨喰の足は急停止した。
「骨喰、どうした?」
鶴丸が不思議そうに瞬く。
「鶴丸に……いや、何でもない」
考えがしっかり纏まらないまま、他になにも思いつかなくて来てしまったが、やはり、頼めない。
本人を前にして思い直す。
頼りすぎていた。頼りすぎないようにしなければと、本丸の皆が思ったあの出来事は遠い昔の話じゃない。
すまない、邪魔をした。
そう言い置いて踵を返そうとするより先に、鶴丸が動いた。
「骨喰」
名を呼んで、腕を広げて、微笑んで。
「俺は頼られるのは嬉しい。けど、甘えてもらうのはもっと嬉しい」
自然な動作で近寄って、目を合わせて、ニッと悪戯っぽい笑みに変えて。
表情とは裏腹に、うんと優しい声色でもう一度名前を呼ばれて。
「つる兄に甘えてみな」
言葉が鼓膜を震わせる。
ぐっと何かがこみ上げて来て目頭が熱くなった。
じわりと目の前の鶴丸が歪んで夕焼けの赤がやけに眩しい。
堪えるように噛んでいた唇を開く。
羽織の裾を遠慮がちに握り、「おいで」というように広げられた腕の中へ静かに身を預けた。
「兄弟を」
少し、声が震えた。もう一度、今度は震えないように気を付けて。
「兄弟を、助けてくれ」
「あぁ。大船に乗ったつもりで任せておけ」
トントンと背を叩き、ぎゅっと抱きしめられた腕の中、骨喰はまるで親鳥の羽の下で守られる雛のような安らぎを感じていた。