忘れていたわけではなかった。
ずっと意識の隅には置いていたけれど、幸いにも主はある程度バランス良い部隊編成を好むタイプであったし、今回も練度差というほどのものを意識するほどの大差はない部隊だった。
それに、出たとしても事が事だけにすぐこんのすけに情報が上がってくるであろうという油断があった。
それがまさか、
「鶴丸!!」
「構うな伽羅坊走れッ絶対に誰も折らせるな!」
空に雷光が走り、遡行軍と同じ見目をした青いオーラを纏う敵部隊。
検非違使だ。
部隊のうち四振りが短刀だった。検非違使はおそらく最高練度の私に合わせて来ているはず。
敵大将戦直前、
突然目の前の遡行軍を屠って現れた奴らに予備知識のあった私以外の全員が動揺してしまった。
初撃を防げたのは私だけだった。
すぐに体勢を整えるが一撃で短刀たちには十分すぎるダメージだった。
だからこれは、これが、最善の判断だ。
退路作りという名の最小限の犠牲。
一人残って大倶利伽羅に重傷の短刀をかつがせ撤退させた。
残りの敵は大太刀一、太刀二、薙刀一。
もうどれだけの時間戦っているだろう。
何時間も経っているように感じるけど、もしかしたらまだ1時間もしていないのかもしれない。
迫り上がる血を吐く。
血を流し過ぎた。頭がグラグラして視界が暗い。
刀は握れているけど、自分がどれだけの力を入れてるのかすでに分からなかった。
耳鳴りが酷くて何も聞こえない。
自分の破裂しそうな心音だけが煩い。
皆は無事本丸に辿り着けただろうか。
うちの本丸の経済状況では部隊員全員にお守りを配ることは出来なかった。
唯一持っていたのは部隊長の今剣のみ。
それも検非違使によってすでに発動されてしまっていた。
敵が刀を振りかぶる。
攻撃に備えて刀を構えようとした時、するりと手から抜け落ちた。
ハっ…どうやらろくに力が入っていなかったらしい。
自嘲気味な笑みが溢れた。
敵ながら綺麗な太刀筋が一閃する。
もはや熱いんだか冷たいんだか訳が分からない衝撃が襲って、するりと、言葉が漏れた。
「参ったな……これじゃあ衣装が赤一色で……」
鶴には見えねえじゃねえか……。
最後まで紡げたのか定かではないような
消えゆく意識の中、わずかに名を呼ばれた気がした。