個人的観点から言わせて貰えば、蜂須賀虎徹という刀にとって長曽祢虎徹はなくてはならない存在だと思う。

虎徹の真作が真作としてあるには贋作が必要で、
家宝として大切にされてきた蜂須賀と実戦で使われててきた長曽祢。
ブランドを誇る蜂須賀と武功を誇る長曽祢。

水と油とも言える関係だが、その根本には方向性は違えど誇りがある。

二人だからこそ分かるものもあるだろう。


「というわけで、すぐにとはいかないが蜂須賀に歩み寄る努力がないわけじゃない。だから、二人の邪魔はするなよ」

「「ごめんなさい」」

実はこっそり盗み聞きしていた加州、大和守、和泉守。
畑当番組は飲み終わった茶を返しに行ってくれたし、蛍丸はそろそろ帰ってくる第二部隊の迎えに行った。

私しかいないならちょうどいいと思って蜂須賀への反発について苦言を呈す。
自分たちでも引っ込みが付かなくなってたらしく、素直に頷いてくれた。

もともと彼らは普通に仲良くしてたのだから問題ないはず。

「けどよぉ、国広は」

「堀川に向かって贋作うんぬん言ってるんじゃないのは分かるだろ。堀川も長曽祢と同じでどちらかと言えば刀派より来歴によった刀剣男士だ。もちろん堀川派にも受け入れられているが、新撰組副長の脇差として顕現したのなら本差はドンと構えていてやれ」

もとより堀川自身は蜂須賀の言葉に堪えている様子はないのだ。

「あまり周りが過剰に反応してやるな」

言葉にため息が混じる。
いらぬ優しさは却って本人を傷付けかねん。


ザワザワとゲートの方が騒がしくなる。
第二部隊が帰って来たんだろう。……少し騒がしすぎないか?

「何かあったのかな」

「出陣先は関ヶ原だったよね。今の第二部隊なら重傷を負うような戦場じゃないよ」

短刀、脇差のみで構成された練度上げ部隊だが、加州の言う通り今の彼らなら心配ない。……検非違使が出なければ。

「まさか検非違使?」

「国広ォ!!」

「あ、おいっ」

ダッと走り出した和泉守。
はっっっやい!ビーチフラッグか?まだもしかして?って口にしただけでしょうが!

残された私達は顔を見合わせてから和泉守を追った。

「国広!!!」

「あっ兼さんただいま!」

ズサーーーーーっ

血相を変えてゲートまで駆けた和泉守を迎えたのは中傷ではあるけれど元気いっぱいに誉桜を舞わせた堀川だった。
和泉守は思いっきりこけた。

「ちょっと和泉守だいじょーぶ?」

「コントみたいだよ」

どうやら一大事というわけではなかったようだ。
それならなぜあんなに賑やかだったのかと首を傾げれば、部隊長の青江が見覚えのない一振りの脇差を持っていた。

あれは……、

「もしかしてそれ浦島虎徹?主が珍しく欲しがってた」

「検非違使どろっぷじゃん!」

なるほど、それで盛り上がっていたらしい。

ところで突然だが、水と油を混ぜる方法を知っているだろうか。
小難しいことを言えば原子や分子といった話になるのだが、ようするに乳化剤……水と油の間を取り持つ物があればいいわけだ。

そうして出来たのがマヨネーズだというのは常識だと思うが、つまり

蜂須賀( みず) 長曽祢(あぶら)浦島(たまご)が取り持って落ち着く 刀派:虎徹 (マヨネーズ)

こういうことだ。

虎徹愛好家に知られたらぶっ飛ばされそうな感想ではあるが、それだけの働きを主が浦島虎徹に期待しているらしい。

大和守安定に聞いて今知った。

けど……つまり、主は虎徹問題を浦島に解決してもらおうとしているってことなのか?

最近主はネットで情報収集するようになった。
それ自体はいいことなんだ。
今までは刀剣に任せていたことにも目を向けるようになったってことだから。
人見知りはなかなか治らず、演練や万屋で人相手に直接とまではいかないけれど、代わりになる努力はしている。

浦島虎徹の情報もそこで手に入れたんだろう。


「鶴丸さん、どうしようか」

おそらく青江も同じ思考に辿り着いている。

たしかに虎徹の真贋という意味では人間の出る幕ではないのかもしれない。

それでも、本丸内の問題という意味では、主が“主"として治めなければならない事柄だ。

「どうするか……主の真意を俺は聞いていないから」

青江はこの本丸にいる刀剣の中でも主に「主としての振る舞い」を求める傾向の強い刀だ。

私が主に求める「主として成長する事」と見据える先が同じだった。

主は今日、こんのすけ主催の刀剣講座を受講しているはずだ。

これを提案したのも、青江だった。


真作、贋作、写し。

「そもそもの話、主はこれらの違いを分かってるかい?」

青江が何気なくを装って落とした疑問にあいまいに首を傾げた主に布を被った初期刀は崩れ落ちた。

ゲーム1周年のセリフ「いい加減、写しとは何かということは広まっただろうか……」でそもそも写しとは何か解説された覚えがねぇな?などとクエスチョンマークを飛ばしたプレイヤー審神者は少なくないと思う。

同じことが起きたわけだ。

気付かなかった私たちにも非はあるのだろう。

「青江さん!」

そうしてこんのすけ主催の講座を受けていた主が駆けつけて、嬉しそうに浦島虎徹に手を伸ばす。

その手は空を掴んだ。

「え」

「え」

「蜂須賀くん?」

青江が避けたわけじゃなかった。

主と共に来ていた蜂須賀が、先に横から浦島虎徹を取りあげたのだ。

ジッと手の中の浦島を見つめる蜂須賀を、周りも雰囲気に呑まれてただ見つめた。

「主、すまない」

「はい?」

「俺のために浦島を欲してくれたんだろうけど、もう少しだけ、顕現は待ってくれないかな」

頼む、と頭を下げた。

浦島には会いたいよ。でも、このままでは可愛い弟に情けない兄の姿を晒すことになりそうだから。

それは真作として、兄として、どうしても許せないことだから、と。


ふらっと厨から戻ってきた鶯丸が私の隣に並んだ。

「余計なお世話だったかもな?」

「なに、話したことで整理がつくこともあるだろうし、時に背を押してもらう必要もあるさ」

「変な方向に押してなきゃいいんだが」

囁くそうに話していると、再びゲートが起動した。

遠征に行っていた第三部隊のお帰りだ。

「帰ったぜーってあれ、盛大な迎えだな。何かあったのか?」

獅子王を先頭に帰ってくれば主と十振り以上が集まってるんだからそりゃ驚いたことだろう。

そんな彼らを無視して蜂須賀が最後尾にいた長曽祢へ歩み寄る。

妙に気迫ある顔で一歩一歩踏みしめるように近付くものだから、他の刀たちはモーゼに割られた海のごとく避けるしかない。


「長曽祢虎徹」

「なんだ蜂須賀」

「貴様に決闘を申し込む」


一拍の沈黙。

「……受けて立とう」

次いで混乱が爆発した。

「どェエエエ!?」「待って待って長曽祢さん折れちゃう!」「おつつけ!」「お前が落ち着け」

「鶯丸、変な方向に背を押してしまったみたいなんだが」

「今日も大包平が馬鹿やってそうだなぁ」

「やらかしたのは大包平じゃなくて俺らだし、返答に困ったらとりあえず大包平言っとくのやめろ」
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