冬の気配をほんのわずかに残した冷たくも柔らかい風が吹く。
本格的な春になる前に、それまで眠っていた生物たちに生気を吹き込むようなコレを、俳人は輝く風と表現した_____と、いうようなことを歌仙と話しながら洗濯物を干していく。
さすが自称文系名刀。話題が雅で風流。
一句読めとか無茶振りされなくて少しホッとした。
いや、鶴丸としてはいけなくもないけど中身が現代っ子なもんで、振られたらそれなりに頑張るけども!
知識があっても活用できるかは違うんだ……。
心中で言い訳しながらおしゃべりしていると、トコトコトコっと五虎退の虎が一匹が駆け寄ってきて私の持っていた鶴丸の羽織りにじゃれついた。
この装束ヒラヒラしてるからね。ネコ科の動物にはたまらないだろう。私もこのヒラみは好きだ。
ついいい感じにヒラリと翻して動きたくなる。
漫画とかで王子がマントを翻すあんな感じにかっこ良く。
そういえば山姥切の布さばきもなかなかだが、アレも練習してるんだろうか。
誰もいない部屋で鏡を前にマントさばきを練習する山姥切。想像して笑っているとその山姥切が通りかかった。後ろに屈強な体格の打刀を連れて。
「おや山姥切に長曽祢。おかえり、演練はどうだった?」
「やはり好奇の視線が多かったな。主には手を煩わせた」
「検非違使の討伐数を上げるための餌にされたんだ。君が悪いわけじゃないさ。なあ山姥切」
「まあ……その分の報酬は貰ってるからな」
黒石目の鞘に金色の柄巻き。
鍔。
威風堂々とした本体に違わず顕現した姿は打刀のものとは思えないほど逞しい。
新撰組局長 近藤勇の刀、長曽祢虎徹。
検非違使ドロップとして我が本丸含めいくつかの本丸で顕現された彼を、政府は検非違使の強さに怖気付き、出陣に消極的になってしまった審神者を焚きつけるための餌として演練参加を要求した。
いい気分ではないが、討伐数は上がるだろう。
新撰組局長の刀ともあって初期に揃いやすい新撰組刀の信頼厚く、まず間違いなく欲しがるだろうから。
審神者のコレクター魂を刺激するのはブラックを生み出すキッカケになり得るんじゃないかとも思うけど。
とはいえあまり他人事ではいられない。
なんせ検非違使ドロップ刀にはもう一振り、浦島虎徹も確認されているのだ。
あとはもう……分かるな?
検非違使狩りの始まりである。
全国の検非違使にアーメン。