二人しかいない静かな喫煙室で、シュボッとライターを付けた男は紫煙と共に言葉を吐いた。

「どうだった?」

「恐ろしいな」

答えた男は煙草に火はつけず、口寂しそうに咥えるだけ。

「なんだ禁煙か?」

「健康診断で引っかかった」

ならばこちらもと遠慮しようとしたのを手で制し、不満げに咥えただけの煙草を灰皿に押し付けた。

「あの鶴丸国永、本当に顕現一年か?」

「間違いない。六振り目らしい」

恐ろしい……と再び呟く。

「刀剣男士のスペックをステータスで推し量ろうとする審神者は多いが、正直な話、あんなものはただの数字でしかない」

「引き継ぎの小狐丸を瞬殺だったか」

「あの時点で初めての演練だと言うのだから、今日のこともあの鶴丸国永ならば不思議ではないと思ってしまった」

「ハァ……スパイを見抜いた審神者の観察力にも恐れ入ったが、普通違和感を覚えただけの審神者の後をつけさせるか?あぁそうだ、指令書についても気を付けなければ……神と関わる契約に、あのような付け入る隙があってはいけない」

「見事に言いくるめられてたなあ!」

笑い事じゃない。

「いろいろ有名な鶴丸国永と聞いていたがあそこまでのやり手とはな」

「稲葉ちゃんは知らん事だが彼のブラック審神者検挙率は素晴らしい。うちに引き抜きたいくらいだ」

「やめとけ。あの鶴丸国永は忠義者だ。」

「分かってる、言ってみただけさ、欲しいのは本当だが。ま、そんじゃそろそろ行くわ。頑張れよ、花形対策部部長どの」

「そっちもな。花形覆面審神者監査官どの」

似てない兄弟は外で待機していたそれぞれの刀剣を伴って歩き出した。











数週間後。

マップ上に表示されるようになったを検非違使マークを追って私達は桶狭間に来ていた。

目の前に広がる合戦場。
雹混じりの雨が降る空に走る雷光。
青いオーラを纏う強敵。

「検非違使……ですね」

敵の姿に索敵の五虎退が呟く。チラと様子を伺うと、その目には燃え盛る闘志が宿っていた。
山姥切、青江、骨喰も無傷の検非違使と戦うのは初めてなので気を引き締める。

隣で大倶利伽羅があまりに強く柄を握るので、トンと背中を叩いた。

「落ち着け大倶利伽羅。戦況も悪くない。何より本丸随一の戦力が揃ってるんだ」

検非違使と戦うつもりの部隊編成。
一度その脅威を本丸に知らしめてしまったが、検非違使は強いが勝てない敵じゃない。

そうだろう?と微笑めば、一番殺気立ってるのはアンタだろうと小突かれた。

否定はしない。が、焦ってるわけじゃないから安心してくれ。ちゃんと背中を任せられる仲間は見えている。これはただの負けず嫌いだ。


索敵は終わり、敵が一歩踏み出す。
私たちはいっせいに走り出した。


「さあ行くぜ、雪辱戦だ!」


剣戟の音が雷鳴と混じり響き渡った。
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