「なるほど。だいぶ全容が見えて来たな」

骨喰と五虎退を経由して仲間達に協力してもらい集めた情報を集約していけば、ある程度の事情が伺えた。

始まりこそ見習いの軽率な行動と言葉不足だが、それぞれ拗れに拗れて事故ってるなっていうのが正直な感想。
おそらく見習いの両親が能力ある見習いから審神者資格を剥奪したのは、そういうそこかしこに埋まってる地雷を一度徹底的に取り除かせるためだろう。
つまり、見習い先として私たちに求められてるのはその助力。普通の見習いに教える軍事作戦や刀装作りなんかの腕前向上等ではないわけだ。

「刀剣男士との付き合い方を学ぶ、という面では確かに見習いという形は合ってますけど……そういうことなら最初から言ってくれればいいのに」

「見習いの両親的には見習いが審神者に戻れなくても別に支障は無かったんだろう。向き不向きある仕事だし、血生臭いし危険もある」

私なら自分の家族を審神者にしたいとは思わない。
主のお兄さんだってそうだったでしょう。


いつものメンバーに今回協力してくれた四振を加えた幹部会議は廻る。

「えっと、刀剣男士のみなさんはそれぞれ主様の一番になりたくて……でも見習いさん的には一番は最初から初期刀の加州さんで……でもそれを加州さんは知らなくて加州さん以外にも知らない刀はいっぱい……つまり加州さんが一番ですよって見習いさんが言えば解決……とはならないんですか?」

秋田の疑問に小夜が首を振る。

「そもそも見習いの近侍は、見習い中こそ初期刀に固定されてるけど普段は完全当番制らしい。出陣でよく使われるのは短刀たちで強さも同じく。となると初期刀に特別感の無い本丸では加州清光は脈絡なく選ばれたように見えてしまう」

「しかしあちらの弟たちのように、現状に危機感を抱いている刀剣男士もいます。全振が対等という形で上手くいかないのであれば、重石や支柱役は必要でしょう」

「あの加州清光はどうも自己評価が低い。そういう環境に居続けた結果とはいえ、本丸を率いる地位に登るのなら少し不安が残るな。何か大きく意識を変えるような出来事でもあれば変わるだろうが」

「意識を変えるような出来事、かあ」

廻るばかりで進まない会議はポンっと音を立てて現れたこんのすけによって一時中断された。

「夜分に失礼します!主様にお届けものを預かってまいりました!」

「届け物?何か頼んだっけ」

「いえいえ!保留になっていた見習い受け入れの事前報酬でございます」

おー!とみんなのテンションが少し上がる。
本来なら資源やら資金やら、「見習いを受け入れる」という事柄に対し前払いで報酬が貰えるそうだが私たちの見習い受け入れが正規の時期とはずれていた為、すぐには用意出来ないとかなんとかで保留になっていたのだ。
まあ臨時収入くらいに考えてたからすぐに貰えずともとくに困っては無かったけど貰えるものは嬉しい。

ちなみにこれとは別にきちんと見習いを審神者として送り出すことが出来たら別途報酬が貰える。噂ではお守り極を一部隊分とか貰った本丸もあるらしいので、ぜひ見習いちゃんには頑張ってもらいたいところだ。

さてなにが貰えるのかな?と主が報酬目録を読み上げる。

「えーと手紙一式、旅装束と、旅道具。えっ?これって」

まさかの

「「修行道具!?」」


修行道具は現在、政府公認の優良本丸にのみ配られている超レア物である。
すでに修行を終えている刀剣男士も実はチラホラと万屋で見かけたが、まだその数は多くない。平凡な戦績のうちではまだ手が届かないと思っていた代物だ。

そんなレア物を前報酬でくれるとは随分と奮発してくれた。いや、きっと修行の情報を前もって知った担当の彼女が頑張ってくれたのだろう。そう多くないはずの資源や資金の報酬が政府に用意出来ないというのに少し違和感があったんだ。情報公開まで保留にしておいて、前報酬という形で確実に手に入れてくれたと考えるのがしっくり来る。

うちの担当マジ敏腕担当官!

「ここはやはり初期刀の山姥切殿に取っておくべきでしょうか?」
「いつ実装されるか分からないし、戦力強化を考えるなら五虎退くんが行ってもいいと思うけどね」
「ぼ、僕ですか?でも、すぐに山姥切さんか小夜くんの極も出来るようになるかもしれませんし取っておいたほうが……」
「俺は一番最初にとくにこだわりはない」
「僕もかな」

やいのやいのと見習いの時とは真逆で話は弾み、ここにいる面子の中では五虎退が修行に行ってはどうか?となりそうな頃、ポツリと主が呟いた。

「これだ」

「主?」

「あの!すごく勝手なことを言うんですけど、この修行道具を見習いさんに譲ってはいかがでしょうか!?」

「主!?」

予想外の提案にみんなが目を見開いて主を見つめた。

「今はまだ手に入れることの難しい道具です。金銭でどうにかできる物でもなさそうですし、審神者資格を剥奪された見習いさんでは多分私たちより手に入れ辛いものです。そんな道具を、見習いさんが加州さんに渡したら……?もちろん、まだ加州清光の極は実装されてないからすぐに行くことは出来ないけど、確約として渡すとしたら、それは一番の刀であるという分かりやすい証明にならないでしょうか」

主の主張を聞いて一様に考え込む。

「……悪くない、と思う」

はじめに口を開いたのは山姥切。
次いで五虎退が肯定を示した。

「加州さんの意識を変える出来事にもなりえると思います」

うん、悪くない案だ。
修行道具より主の後ろ盾の方が欲しいしね。
それで上手く収まってくれるのなら。
初期刀候補の極の実装を最後にする、なんてこともないだろうしな。

ざわりざわりと肯定の空気が広がり、見習いへの修行道具の譲渡が問題ないこともこんのすけに確認すればもう話はまとまった。

「では、明日の朝他のみんなにも事情を話して、反対がいなければ早めに見習いさんに譲ってしまおうと思います」

了解。

皆が声を揃えて会議は終了だ。

夜も更けて夜警の刀剣男士以外は就寝を始める頃だろう。青江と骨喰、長曽祢は夜警に加わりに行くようだし、大倶利伽羅と光忠はそんな彼らの夜食作り、一期と五虎退と秋田は兄弟たちが寝ずに待ってるとのことで共に出ていった。
私も今日は疲れたし早々に寝てしまおうと腰を上げれば、主に呼び止められる。

「なんだい?」

「あの、ごめんなさい。私が見習いさんに協力するようなことしてたから、鶴丸さんにしなくていい苦労かけて……」

ああ、光忠が動いてくれたんだっけ。
別にその件はもう良いんだけど、ここであっさり許して甘やかすのもなんか違うな、と思った。

「主、君のお兄さんの件に協力してくれた彼女、分かるだろう?俺はな、彼女に政府の刀にならないかって出会ってからずっと誘われてる」

ヒュッと主の喉が鳴る。
おそらく初耳だった山姥切と小夜もギョッとした顔でこちらを見た。

「部署によっちゃ出陣の機会は減るだろうが、向こうには既知の刀も多いし、護衛は苦手だが出来ないわけじゃないしデスクワークも苦手じゃない」

「あ、え、あの、鶴丸さん…」

「見習いの本丸もなあ?見習いに惚れられてるだけあって悪い扱いはされんだろう。噂の穴掘るタイプの俺にも興味はあるし、向こうの本丸も心配だから見守るのも悪くはない。なに、初めてこの本丸に顕現した頃と気苦労はそう変わらんだろう。あの頃をもう一度と思えば、なあ?」

この本丸でも最初の頃は主の一番になりたい!って刀はいたんだ。でもそれは山姥切のものと決めていて、そういう刀たちを抑えるのは私たちの仕事だった。顕現した数が二桁になればその数の刀剣男士が山姥切を一番としてるからそう言う物だと当たり前になっていっただけ。

進んであの苦労をもう一度したいか?と聞かれればそんな気は1ミリもないけれど。

「あの頃の君にそんなことを気にかける余裕は無かったから知らせてなかったが、この本丸が見習い本丸のようになる可能性だって十分にあったんだ」

「君は極度の人見知りだし和泉守を前に泣くし、審神者仲間を作るのも一苦労。やっと目をかけて貰える先達ができたかと思えば疑心暗鬼になって拒絶しだすわ、保守的なくせブラック本丸に首突っ込むわと俺たちの苦労が絶えん」

じわりと主の目に水の膜が張る。
溢すまいと堪える様を見て、黙って受け止める姿を見て、この辺にしとくかと苦笑を一つ。

「行かないぜ」

「えっ」

ぱっと顔を上げた拍子に溢れてしまった涙が一筋頬を伝う。

「なんだ。出てって欲しかったか?」

「そんなことない!けど、そういう話の流れだったんじゃ」

「君は主として未熟も良いところだ。なんで俺は移籍しないんだと思う?」

「な、なんで」

「君は極度の人見知りだが、俺たちの声に真剣に耳を傾けてくれる。俺たちのために怒ってくれる。花笠殿や紅花とも今は良好な関係を築けている。ブラック本丸の問題に首を突っ込むような優しさで救われた刀がいる。今日の提案だって驚かせて貰ったぜ。君は未熟だが、成長し続けて来た。それをちゃんと見てきた」

「鶴丸さん……」

「歩みを止めてくれるなよ、主。君が成長を続けるのならば、審神者として役目を全うしようというならば、俺はこの身の砕けるその時まで君の刀でいる覚悟は出来てるさ」
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