生憎とお世辞にも恋愛偏差値が高くはない私には、恋する乙女の思考を読むのは難易度が高いらしい。
イマジナリー乱と髭切がやれやれと先輩面で首を振っている。待て待てなんで髭切まで出てくるんだ。それだけ少女漫画髭切のインパクトが強かったんだろう。

これ以上は考えても無駄だなと二人を脳内から追っ払い、一口吸ってやっぱりまだ固かったらしいフラッペをまたかき混ぜる見習いに先程はやめておいた羽織を脱いで渡した。

「体冷やすぜ……なんだいその物言いたげな目は?」

「いや、私言ったわよね?誤解を解くための話はしたけれど、同時に今日をいい思い出にするつもりはないって言ったわよね?通じてない?諦めるつもりはないって宣戦布告よ分かってる?なんなの応える気がないのに不用意に優しくするんじゃないわよ惚れるぞ、惚れてるけど!」

「ちゃんと通じてるし分かってるが、それと冷えは別問題だ。あと安心しろ。これが主なら渡すだけじゃなく掛けてやるまでする」

「すごい心を折りに来る……」

「結果が分かっていて頑張るのは君の自由だ。俺が悩み気遣い行動しても無駄だと悟った。それで君が納得できるのであれば、俺も避けたりしないと誓おう。だが同時に俺も俺の自由にさせてもらうことにする」

手始めに水面下で勝手に争ってる両本丸の刀剣男士をまとめて締め上げようそうしよう。
良いだろ?OK?よし見習いのGOサインは貰ったのであとは主だな。いや主がある意味一番アレか?

一種の開き直りではあるが、抱え込む問題は少ないに越したことはない。だってなんかもうめんどくせぇ。見習いの親の介入がないと知って心労が一つ減ったらなんで私がこんなに悩まにゃならんのだという思いが一周回って腹立たしさに変わってきた。ただでさえまだ私は……脳裏をチラつく竜の金眼に意識を持っていかれるのに。




ドォンッ!!!

「きゃ!?」

突如鳴り響いた爆発音。
咄嗟に見習いを抱えて飛び退り、本体を手にあたりを見回す。
音は遠かったがとても平和な万屋街でしていい規模の音ではない。
もくもくと黒い煙が上がっているのが東の空に見えた。
耳を澄ませても続く喧騒が風に乗って来ないから、まさか遡行軍の侵攻とかではないだろうけど。

「主!」

隠れて尾行していた見習いの刀剣男士は彼女の堀川と愛染だったようで、隠れるのを辞めて駆け寄ってくる。

抱えていた見習いを地面に下ろすと、ぺたんと座りこむものだから驚いた。咄嗟に抱えたからどこか痛めたのだろうか。

「おい君、だい……」

「戦闘モードの鶴丸国永カッコヨスギ……!」

「大丈夫そうだな!よし」

心配して損した。
うっかり抜けてしまいそうになった緊張を持ち直し、周囲を警戒しながら向かった黒煙の周囲には大勢の審神者と刀剣男士が押し寄せて芋洗い状態で、政府職員らしき者たちが非常用ゲートからの帰還を促している。

「非常用を使えってよ。ゲートが爆発したみたいだぜ」

「かなり派手に爆発したものだな。故障のレベルではなかったろう」

「多分だけど歴史修正主義者からのクラックを受けたのね」

「は?そんなことが可能なのか?というか一大事じゃないか!」

「声、抑えて。一般審神者に公表できる内容じゃないの。それこそ混乱が起きて戦どころじゃなくなるわ。私は両親が両親だから知ってるだけ。場所を変えましょう」

聞いてないぞ!と思わず声を荒げた私に見習いがシッと人差し指を口唇に当て、その辺にいた職員を捕まえて名前を告げる。

あ、職員の顔色が変わった。

そしてやけに畏まった職員に案内されて、私たちは急遽設置されたのだろう関係者しか入れない仮設テントの中へ。
け、権力ーーーー!!!
しかも結構使い慣れてる感!!

通常権力にものを言わせるタイプ……それも親という虎の威を借るタイプは行使される側から嫌われるものだけど、対応してくれる職員たちからそこまで嫌悪や厄介者感が伝わって来ないのはそれだけご両親が好意的に受け入れられてるからか、それとも見習いの人柄か。
今までなら迷いなく前者だと思ったろうが、話してみればそこまで悪い子ではない。いや惚れてる相手に猫被ってる可能性はあるけど。うちに来る前に別本丸で匙を投げられたのは何故なのか……聞こうと思ってたのに爆音で吹き飛んでしまった。仕方ない。それは別働隊に任せるとしよう。

質素なパイプ椅子に座る見習いの後ろに堀川達と並んで控えていれば、万屋管理部職員がやって来た。管理部には世話になってるが、顔に覚えがないからそこそこ高い地位にいる人間なんだと思う。

「えーこほん。分かっているとは思いますが、現段階で開示できる情報はそう多くありません。何しろ我々も調査中なもので……。これから話す内容も決して他言しないで下さい」

そんな前置きから始まった説明では、やはり見習いの言う通りゲートの爆破は歴史修正主義者によるシステムクラックが原因らしい。

「政府のセキュリティは勿論ですが、ゲートは特に厳重に守られています。しかし同時に一番繊細なものでもありますので、ほんの少しの干渉を許してしまうだけで今回のようなことが起こります」

プログラミングは確固たる始まりをいつとは明言は出来ないが、仮に「解析機関」と呼ばれる機械式汎用コンピューターをその始まりとすれば実に和泉守兼定よりもやや歳上だと言えばその歴史の重みは分かって貰えるだろうか。
しかも進化スピードは目を見張るもの。

人間はありとあらゆるものを生み出し、改良し、改造し、進化させて来たが、ネット以上に凄まじいスピードで進化した技術はおそらく無いだろう。

現代技術の集大成とも言える、いやそれ以上の、異空間同士だけでなく過去と現在まで繋ぐ技術が詰まった正しくオーバーテクノロジーと呼ぶに相応しいゲートは、そのプログラミングをたった1文字削っただけで容易く崩壊する。

刀剣男士の刀で守れないそれは厳重に秘匿され守られている、はずだった。

ゲートへの攻撃、不具合。

これだけのキーワードで思い当たるものがある。

「まさか、去年のあれも……?」

愕然とする私の言葉を拾った職員が目を伏せて俯いた。沈黙は、肯定だ。

ザッと血の気が引いて作り物の心臓が大きく跳ねた。
指先が冷たくなっていく感覚がして、誤魔化すように握り込む。

去年起きた中規模ゲート異常。
鶯丸と三日月が巻き込まれ、あわや折れるところだったあの事件。
なんらかのゲート不調による事故だと聞いていたアレが歴史修正主義者の仕業だと言うのなら____

私たち政府軍は、随分と劣勢らしい。
[ 110/113 ]

[前へ] [次へ]

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -