「これで良かったかしら?」

そんな主たちの様子を近場のカフェテラスで眺めていた女性がゆったりと首を傾げた。

政府運営管理人。

あまり知られていないが、そんな大層な役職を持つうちの一人らしい彼女に出会ったのはまだ一年目の頃。

場所は例によって図書館。

たまたま彼女が所望の本を私が読んでいて、それを譲っただけ。

なのにそれ以来「最近どう?」とか「何かあったら相談してね」とか、いい意味で目をつけられている、のだと思う。個人用の端末を持つようになったと分かれば速攻で連絡先を寄越してくることからも分かるだろう。

「政府刀になる気ない?」とか勧誘を混ぜてくるので私的にはあまり都合は良くないけれど、敵対的意味の目をつけるじゃないからまぁ…。

布面で隠された素顔は声や見える口元から察するにかなり若いのだろうが、知らぬ間に手のひらで転がされていそうな、食えない狸っぽさを感じる女性だ。御役人らしいと言えばそうなのだろう。前世で出会っていれば、おそらくかなり相性は良かったと思う。

そんな人だから何となく頼るのを躊躇ってしまうのだが、今回はそんなこと言ってられなかったので。


主達が連れ立って参拝に向かうのを見送りながら改めて礼を言えば、薄い唇が弧を描く。

「ねぇ、やっぱり貴方が欲しいわ」

「そう言って貰えるのは光栄だが、俺は」

「主の刀だから、でしょ?もう耳タコよ」

「なら勧誘も耳タコだって言っていいかい?」

「勧誘じゃなくて口説いてるの」

「後ろに控えてる君の護衛の顔見てみろ?」

顕現3年目のヒヨコ丸国永を殺しそうな目で見てるから、頼むから振り返って。あっテメッ振り返った瞬間イケメン面に戻りやがって。

「で、そろそろ本題に入っていいかい?頼みをきいてくれた対価だが…あ、もちろん転属はしないからな」


そう。よくは知らないし教えてくれないが確実に上の人間であろう彼女が、たとえ目をかけている刀剣男士の頼みだろうと無償で動くわけがない。そんな暇もない。
むしろ稼働3年目の本丸のために動いてくれたことの方が奇跡なのだ。

主のお兄さんたちの様子も確認出来たことだしと切り出した。

「とある子を本丸で預かって欲しいのよ」

「とある子?」

「期限は一ヶ月」

「待ってくれ。基本的に部外者を入れない本丸で預かるというのならそれなりの手続きが必要だろう?今ここで俺の一存で即答は出来ない」

「もちろん、正式な申し入れは担当を通して政府から行くわ。ただそれには拒否権もある。それを断らないで欲しいの」

「まるで断られる前提だな……いや、主の性格なら何もなければ断るだろうが」

「それからその子、ちょっとした問題児で」

「急に断りたくなってきた」

「拒否権があるとでも?」

思ってないです、はい、どうぞ続けて。

「上手くいけば悪い話ではないのよ。むしろいい話だわ。ただ、とてつもなく面倒な話ではあるわね」

「いい話ならまだ中堅にも届かない俺たちの本丸に話を持ってくるのはどうなんだ?」

「もちろん最初はベテランの本丸に預けられていたわ。けれどそこでちょっと……手に負えないって追い返されてしまったのよ」

「そんな子が俺たちの手に負えるとも思えないんだが、そもそもその子というのは何者だい?まぁ本丸に預けられる、となると……」

「ええ、貴方の想像通り」

彼女は微笑みを消し、上官として命令を下した。


「貴方たちの本丸には『審神者見習い』を受け入れていただきます」



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