二人の結婚式は身内だけのささやかな規模で行われた。
もともと式が遅れたのは主にも参列して欲しかった兄心というだけで、婚約期間は長く籍を入れていないがすでに夫婦といっても良かった。
それぞれの友人知人への挨拶も済ませており、大規模でお披露目をする必要も無かったので。

そんな小規模な中、護衛ではあるが身内でもなくお兄さんに睨まれている私は流石に参加を辞退した。空気を読める日本人の辛さよ。かわりに小夜はねじ込んだけど。


雪がちらつく冬空の下、式場の外で目を光らせる私のふっと吐いた息が白く登る。


どのくらいした頃か。
淀んだ気配がぞわりと首筋を撫でた。

今までは夜中だったくせに今日に限って昼間に出現か!

本体を取り出して竹刀袋を投げ捨て、獲物を探すようにあたりを伺っていた敵太刀へ切りかかった。

______はずだった。

ガキンと鋼のぶつかる音。次いで押し負け弾かれたのは私の刀。

敵太刀と私の間に滑り込んで来たのはあまりにも見覚えのあり過ぎる存在。

援軍か?という一瞬の期待は今の一撃とこちらへ向けられた切先に砕かれた。

「何故」

唖然と溢れた言葉に返答は無い。

遡行軍が式場の方へ向かうのが見えて慌てて追おうと意識の逸れた私の腹を、鋼が貫いた。

「何故……!」

刺さった冷たい熱に目の前にある金の明眸を睨み付けた。

肉を突き抜け壁まで届いた刃の割に痛みが大したことないのは、血管や臓器をうまく避けて刺したからだろう。
刀剣男士の肉体はこの程度ならば軽傷よりの中傷といっところか。

だがこの場に縫い止められるように刺されている上、本体を握る手は彼によって打刀とは思えないほどの力で押さえつけられビクともしない。


ガシャン!とガラスの割れる音と続く悲鳴。
その中に主の声を拾って駆け付けねばと体を捻る。

片腹くらい掻っ捌かれても良い。

その覚悟だったのに、動きを読んでいたように今度は体全体で壁に押しつけられた。

「くっそッ、邪魔だ退け、退いてくれ!」

懇願に似た叫びは白い蒸気になって消え、頭を過ぎる最悪の未来に冬の寒さとは別の理由で体が震えた。

その震えが伝わったのだろう彼は、まるで疚しいことなど何もないというほど真っ直ぐに私と目を合わせてゆっくり、力強く言葉を紡いだ。


「信じろ」

なにを、この状況で、何を信じろって言うんだよ。


大倶利伽羅!!!!!
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