髭切と青江が今日この日万屋に来ていたのは全くの偶然といえば偶然だった。

たまたま珍しく非番が重なり、髭切の気分がノったから、という理由で先日の推理の証拠探しでもする?という軽い気持ちで万屋を徘徊していたのだ。


「道端で女性が産気づいてます、助けてください!」


しばらくしてちょっと休憩しようと、情報収集も兼ねて万屋管理部の詰所に顔を出した時にどこかの刀剣男士が飛び込んで来たのはタイミングが良かったのか悪かったのか。

万屋で問題が起こり、役人が出動する時は相手が刀剣男士だった場合を考慮して必ず役人と護衛の刀剣男士は同数でなくてはならない。

しかし詰所にいた刀剣男士は一振りだけ。

仕方なく臨時で働くことになった二振りは後日代休を申請することを固く決意した。



つまりだ。彼らがここにいることは偶然でもあるが、
もともとの目的は怪異の惣領をとっ捕まえることでもあったのだ。

それって仕事じゃない?と後で話を聞いたとある役人は思ったが、普段から禁断症状のごとく怪異をぶった斬りたがるのが怪異対策部所属の刀剣なので、彼らにとっては有意義な休日か…と思い直したのは余談である。


さてそんな休日出勤ではあったが、髭切の興味はすでに出動理由の当人たちにはカケラも無くなっていた。
むしろ存在を覚えてるかすら怪しい。弟の名前も怪しい。

布面で顔を隠す審神者は珍しくない。最近では少数になっては来たが、戦争初期の頃はそれこそ全員がつけていたからだ。

髭切の興味の矛先は布で隠された素顔ではない。

救命と助産に当たったというこの女の自然な立ち居振る舞いの中の隙の無さ。
仲間内に向けるものではない、守る様に立ちはだかる秋田藤四郎の警戒。


彼女が妖怪の類であることなど分かるはずもなかったが、妖怪切りに特化したこの髭切の嗅覚、本能が決して逃すなと囁く。


だから、髭切はいつものようにたしかな思考と理性をもって、
本能に逆らうことなく、

スラリと本体の抜き放ち、


「その腕、もらった!」

「舐められたものねぇ」


慣れたように振り下ろした刀はガキンッと音を立てて受け止められた。
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