審神者は日本各地から集められる。
一体どれだけの数いるのか正確には知らないが、少なくとも政府でいくつかの国に分けて管理しなければならない程度にはいる。

そして万屋は全国共通だった。

つまりそれだけ大勢の審神者と刀剣男士が集まるのだから街全体もかなり広いわけだ。

そんな場所で大勢いる秋田藤四郎の中からうちの秋田を探さなければならない。

カラスを放って見つけることも考えたけれど、あれは視界を共有できるだけで、たとえ秋田藤四郎を見つけてもそれがうちの秋田なのかを確かめるためには直接出向かなければならないのだ。

あの子はレア刀でもなければ、目立たないようにと粟田口の戦闘服を着ていたはずなのでそれではキリがない。

結局、私が自力で探すしかないのだ。

そうして東奔西走やっと見つけた秋田と合流するべく、少し離れた目立たない所に降り立って人間に化け直す。

急がなければ!

と秋田を呼びながら走り、気付いて駆け寄ってきてくれた秋田の手を取って踵を返そうとした時、突如上がった呻き声に反応した秋田がするりと手から抜け出し駆けて行ってしまった。

あきたくぅんんんん!?

「大丈夫ですか!?」

「産まれるかもッ」

「大丈夫だからな、大将」

産気づいとるがな!!
騒ぎを聞きつけて野次馬も続々と集まってくる。ここって救急車とか来るっけ?誰も連絡してる様子ないし、走ってるとこ見たこともないけど。

そうこうしてる間に薬研藤四郎がおそらく陣痛の感覚を測り始めた。
秋田は女性をさすったり声をかけたりしている。

これは……仕方ないか。

流石にこの状況と懸命な秋田を見捨てるほど落ちぶれちゃいないんですわ。

急いでそこら辺の反物屋に声をかけて商品を譲ってもらう。
緊急なんですすみせん、代金は後で当人が政府で頼みます。

オラ働け野次馬共!

「そこの貴方はすぐ管理部なりなんなり連絡して、誰が出産経験ある方いません?あと貴方と貴方、それからそこの人らも、この布で仕切り作って見えないようにしてあげなさい!」

こういう時ほんと男は頼りにならねぇなと思う。男審神者と大きな刀剣男士が右往左往してるのを短刀がテキパキと引っ張り出した。

残念ながら出産経験ある人も、医療従事者も居合わせていないようだ。
こればかりは仕方ない。
変わりに二振りの薬研藤四郎が手伝いを申し出てくれた。
ありがたい。


まさか暇つぶしに修めていた知識を活用する日が来るとは___。



そこからの決着は思いの外早かった。

あれからすぐに破水し、ほぼ同時に赤子の頭が見え、ドラマのような波乱もなく…いや、場所が道端な時点で十分波乱だけれとも…とにかく案外スルリと元気な男の子が産まれた。

産声を上げた瞬間、達成感と安堵が湧き上がるより先に野次馬の歓声が上がってビビった。

知識があったとはいえ初めての経験だったのだ。

1000年の年の功と秋田の前だという事実がなければぶっちゃけ泣いていたと思う。
それが歓声に驚いて吹っ飛んだのはある意味助かった。だって翼下の子の前でそんな情けない姿は晒せない。

とにかく追加のタオルや布を好意でくれた周りの店の店員たちに感謝だ。
母子を暖かく包んでやっと一息吐けた。
母となった彼女と彼女の薬研が手伝ってくれた他所の刀剣や私にお礼を言って頭を何度も下げる。



「やあご苦労様。遅れてごめんね」


______背筋を氷塊が滑った。


赤子を可愛い可愛いと見つめていた秋田もサッと顔色を変えて私を守れる位置に立つ。

そこにいたのは大妖怪切りの刀、源氏の重宝の兄と幽霊切りの脇差。

他にも数人の役人がいて、彼らは担架を持って褥婦の看護にあたっているのでそれ担当のものたちなんだろう。

よりにもよって事情聴取担当の刀があの二振りだ。

目の前に微笑みを浮かべた太刀が立つ。

私が占いで見た光景はこれか……髭切と秋田が対峙している光景、イレギュラーで私がいること以外は見た通りだった。

むしろ私がいることで悪化させた気がする。

人助けの報いがこれとか、ハァーーー???

「僕らも今日は非番だったんだけどねー」

ソウデスカー腹立つわーと心の中で罵りながらこのふわふわ兄の質問に答えて行く。人間に化けるのは私が一番最初に習得した術だ。自信があるし、実際に今まで自分から正体を明かす以外で見破られたことはない。堂々としてれば無問題。

が、秋田の緊張がヤバイ。いざという時に私を守ろうというのか、腰の本体に意識が行きすぎている。

これは不自然だし下手すりゃ勘ぐられる。

トントンと会話の合間に頭を撫でて落ち着かせるが、見上げてくる瞳が不安に揺れている。


そういえば秋田は私の妖怪としての本来の力を知らないのではないだろうか?

大妖怪の地位、広い縄張りと慕ってくれている多くの妖怪たちで察しはつくだろうけど、目の前で見せたことはなかったはず。

大丈夫だ。いかに大妖怪切りの刀だろうと、言い方は悪いが刀剣男士は妖怪を切った刀そのものではなくその劣化版……奥の手もあるし、私が負ける相手ではない。

唯一困るのは正体がバレて芋づる式に店にまで調査の手が及ぶことだが、それもまあ怪異対策部所属でない限りあり得ないだろう。


「あ、自己紹介が遅れたね。僕は政府の怪異対策部所属、源氏の重宝 髭切さ」


……やっべ。
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