場所は変わって犬飼家の居間。ちらりと見た森の方は霧が掛かってほとんど見えない。魔除けに面を渡されたあたりが事態の深刻さを語っている。コトリと目の前に置かれた湯のみの名前は確か二郎さんだったか。今は普通の湯のみのように沈黙している。それが当たり前のはずなのに外の景色と相まって不気味だ。

「さて何から話そうか」
「詩織はどこに」

食い気味に問う的場に夏目はおや?と思った。的場と犬飼は敵対していて、ここに来たのも妖怪退治関連だと思っていたから質問するならまずあのどう見てもただ事ではない景色についてだと思ったのに真っ先に問うたのは詩織について。名取を盗み見たけど変わった様子はない。疑問に思うのは自分だけらしい。

「詩織は……分からない」
「分からない?」
「間違いなく、本殿の方にいるだろう。生きている、とは思う。が、イコール無事だと断言はできない」
「ここは神使であるあなた方の守護領域のはずです。どこぞの妖怪に襲われたからといってそう負けるはずがない。それが、負ける所か主人の安否も分からない?」

責めるような的場に朧は首を振った。どこぞの妖怪じゃ、ない。

「神だ。我らの、本当の主人。九十九神社の祭神。その封印が解けた」
「噂は本当だったか…なぜ解けた」
「分からない。ただ、我ら神使は祭神に拒絶され、詩織を助けに行くことが出来ない。だから、助けて欲しい」
「詩織を、助けてくれ」

**

封印が解けたとはいえ、まだ完全に力を取り戻したわけじゃない。かなり弱っているはずだ。だから詩織を何らかの方法で呼び込み、喰らって力をつけようとしたのだと考えている。どうやって察知したのか、我らより速くそれに気づいた美影が森全体に結界を張ったようで、神は閉じ込められている状態だが、同時に外からも隔絶されてしまった。今、どうにか中への侵入を試みているからそこへ行け。霞がいるはずだ。

救助に同意した3人に朧は震える声で礼と謝罪を口にしてそう言った。破魔の力を持つ朧はより強く拒絶されてるらしく、案内の途中で近寄れなくなってしまったので見送りはそこまでだった。
ちなみに名取は夏目の参戦に難色を示したが、無茶はしないという約束で協力を取り付けた。
無言の的場を先頭に歩くと道の先で金髪の目立つ霞とお札を並べている女性がこちらに気づいて顔を上げた。

「彼女は詩織の姉の伊織さんだよ」

なるほど、少し似ている。名取の紹介に会釈した彼女は的場を見て複雑そうな顔をしながら説明を始めた。

「道は作れました。ただし一方通行です。出る方法は結界を解いてもらうしかないでしょう。……覚悟はよろしいですか?」

そう最後の確認をし、一つ頷くと伊織は足元にあった大荷物を背負って術の発動を___しようとして的場が遮った。

「待ちなさい。まさかあなたも行くつもりですか?」
「はい」
「足手まといです」

きっぱりと断言されてしまったけれど、伊織はそれでも、と言い募る。今日ここへ彼らが来なければ伊織一人で乗り込むつもりだったのだ。何と言われても置き去りにされるつもりなんてない。

「私は確かに、力も、才能も、詩織に敵いません。でもそれでも…詩織は私の妹です!きっも今も一人で戦ってる。だから退きません!」

邪魔、足手まとい、道具だけ寄越しなさい。
嫌、お断りします、自分の身は自分で守ります。
名取と夏目の入る隙ない平行線の二人に終止符を打ったのは霞だった。柏手を二つ

「閉じの道筋通る者 獣の道を辿るものに蛍が道を指し示す_____いってらっしゃい」
「「「は?」」」

パンっと最後の柏手の音がし、瞬き一つので一行は森の中に立っていた。

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