「___ッ!!」

氷の手で胸を切り裂き、心臓を鷲掴みにされたかのような怖気に夏目は布団を跳ね除け飛び起きた。
ハッハッと荒い息と高い気温にも関わらず伝う冷や汗にぎゅっと目を閉じる。開けたままの窓からは温い風と「ジーー……」という夏夜の虫の鳴き声。

「……先生?」

応じる声は無い。そういえば宴会なのだと意気揚々出かけていったのだった。朝までコースだろう。いまだ早鐘を打つ心臓に話し相手が欲しかったのだが仕方ない。しかし何て、

「何て…悲しい…、悲しい?」

否、恐ろしい夢、だったはずだ。溢れた自分の言葉に困惑する。夏目が見る夢は少しでも関わった妖怪に関する夢であることが多い。本能が、そして今までの経験が、あれはただの夢では無いと訴えかけてくる。けれど夏目にはとんと心当たりが無かった。咄嗟に叫び声も出ないほど恐怖を感じた夢だ。もしそんな凶悪な妖怪に出会っていれば忘れるはずはないし、忘れられないだろう。
夢の恐ろしい妖怪が藤原家や友人達に危害を加えないとも限らない。少しでも手掛かりが無いかと思い出すも、夏目には覚えのない景色ばかりだった。

枯れ果てた大地に大声で叫ぶ醜い妖。

おのれ、おのれおのれおのれおのれ人間どもめ!!!!


ひたすらに強い憎しみの感情が流れ込んできたのだ。
ゾクリ
思い出しただけで鳥肌が立つ。とにかく、これは朝一で先生へ相談しよう。こんなの、とても一人で対処出来る気がしなかった。





何かに呼ばれた気がして目が覚めた。台風は夜中の内に過ぎ去ったようで、雲間から少し欠けた月がのぞいている。静かな夜だった。そう、"異様な程に"。

「朧、霞…美影?」

既に丑三つ時に差し掛かっているとはいえ、この時間に眠るのは人間である。つまり妖にとってはまだまだ活動時間内で、多くの妖がいる九十九神社では完全な静寂などあり得ない。
皆が人間である詩織たちに気を遣ったとしても、だ。

「___ぁ____、」
「誰かいるのか?」

やはり呼ばれた気がして問いかけるが応答はない。ふと、外に出てみようと思った。何故か、そこにいる気がした。誰が?誰だろう。でも呼ばれたのだから行かなくちゃ。
それはまるで夢の中にいるような曖昧な感覚で。靴を引っ掛けるように外へ出て、沈んでいく月を追うように足を動かした。
雨上がりのむしっとした湿気で髪が肌に張り付く。不快に感じた詩織がそれを払おうと顔に触れた時、その感覚にハッとして意識が覚醒し、同時に血の気が引く。

あり得ない、なんで自分はここにいる…!?なんで、!

まるで夢遊病のように足を運んだ目の前に、暗闇に佇む九十九神社の本殿があった。そして本来ならば固く閉じられているはずの扉が、夜風に煽られてキィキィと古びた音を立てていた。

なんで、封印が解けているんだ_____!

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