02
窓際の席というのは春は温かくて心地よく、秋は涼しく快適だ。
だが今は夏真っ盛り。それも昨日に引き続いて真夏日だ。
心地よさは欠片もない。
「何言ってんだよ夏目。風が当たるだけいいだろ!?」
彼、西村悟はお昼のメロンパンを片手に丁度柱が邪魔をして風の当たらない席から避難するように夏目の前の席に後ろ向きで座った。
その隣に北本篤史が一組からやって来た。
「さっきクラスの女子が言ってたけど、今年の最高気温だそうだ」
うへ〜と西村が舌を出す。
気持ちが分かる夏目は同意を込めて苦笑した。
そして気付く。
弁当を出そうとカバンを漁っていた北本が固まっていることに。
「どうした北本?」
「弁当忘れたとか?」
西村が冗談交じりに言ったが、北本はそれを引きつった笑みで肯定した。
「マジ?」
「大マジだ」
「教科書の下とか埋まってないのか?」
そんなまさかと言いつつ必死に探す。午後から体育があるのだ。普通の授業なら兎も角、体育を昼抜きで乗り越えられる自信が無い。
と、北本の頭に何かが置かれた。
「お探し物はコレかな?北本の兄」
「先輩!」
北本は後ろを振り返り、家に忘れた弁当を届けにきた人を見る。
「お話中失礼」
メガネの奥、紫がかった不思議な瞳が細められ、吹き込んだ風が彼女のスカートと髪を揺らした。
夏目は初めて見るその人に強い既視感を覚えた。
「登校途中で君の妹が家に忘れていたと困っていたから届けに来たぞ」
「すみません。ありがとうございます」
「それでは私はこれで」
去り際、不思議な笑みを夏目に向けると、廊下で待っていたらしい友人の元へ戻っていった。
「北本、今の人誰だ?」
さっそく弁当を口に運んだ北本の代わりに西村が答える。
「知らないのか?三年の犬飼先輩だよ。学校はもちろんこの辺じゃちょっとした有名人だぜ?」
「俺は前に住んでいた家が近いって理由で親しくさせてもらってるだけだけどな」
西村が意気揚々と語るには、彼女の家は由緒正しく祖父が政治家、父親も兄も政治家、姉は大和撫子、と全員が人から羨望の眼差しで見られる存在らしい。
そして先輩自身はといえば、整った容姿だが姉と正反対の女らしくない口調のため、勿体無いとある意味有名だった。
「けどさ、犬飼先輩って中学卒業するくらいまでは口調も違ったし雰囲気ももっと柔らかかったんだけどなあ」
北本の情報に、新手の高校デビューだろうかと
西村は残念そうに呟いた。
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