04

夢を見た。
深い深い山の中で、 誰かが話しかけてきた。それは人ではなく。
目眩がするほど強い威圧を前に、体はピクリとも動かせず、目を背けることすら出来ない。
囚われる。
捕らわれる。
捉われる。
やがてソレは言った。

「________________」


ガタンッ
大きな揺れが体を強く揺さぶって、詩織を夢の深淵から引きずり上げた。
もう一つ大きくガタンっと揺れると、詩織を乗せた車はその車体を細かく弾ませながら山道を登っていく。
獣道、とまでは言わないがお世辞にも整備されているとは言えない道の終わりはまだ見えない。 何だか未知の世界へ誘い込まれているような気すらしてくる。

「大丈夫ですか?」

横からの声に目を向けると的場が気遣わしげに顔を覗き込んでいた。

「魘されていましたが」
「夢を、」

「夢を見た」と言えば、人の夢の話なんて面白くも無いだろうに続きを促して聞く姿勢をとる。
深い山、妖怪、圧迫感、そして、

「あの時何て、言われたんだろう」

覚えてないのか、はたまた言われる前に目を覚ましたのかは定かではない。
だが妙に、夢の妖怪が気になった。そして何と言われたのかも、とても大事で重要で、忘れてはいけない気がした。忘れてしまったけれど。意味無いな、自分。

「山道を車の中で揺られていれば、そんな夢も見るでしょう」
「そんなものかな」

しかし所詮夢は夢。気にするほどの事ではないだろうと思い直し、運転席を見た。 荒れた山道を運転するのは朧だ。 現代技術まで使いこなすとは何てハイスペックなのだろう、うちの神使は。しかもそれが様になっているから脱帽だ。

さて、ところで今更だが何故こんな山道を登っているかといえば、 それは的場一門に入った一つの依頼から始まる。
とある山に住み着き荒らすという妖怪の退治。
受けたはいいが、それはあまりにすばしっこく、的場の弓などかすりもしない。
そこで泣きつ……頼ったのが詩織というわけである。
彼女の結界やその他諸々の力なら必ずや捕まえてみせるだろう。

キキッ

「痛っ」

揺れながらも順調に進んでいた所に朧が急ブーレキをかけたせいで強かに頭をぶつけた。
一体どうしたというのか?何かあったのか。
バックミラーを通して見えた朧の顔は驚愕に染まっていた。そして徐々に険しく歪み出す。

「おいおいマジでか。俺はこの先に進めない」
「何故です?」

的場が詩織の心中を代弁する。

「この先は何処ぞの神の縄張りだ。鬼に堕ちたとはいえ、別の神に仕える神使が理由もなく侵害するわけにはいかん」

妖怪退治などその理由に値しない。
朧は体を捻って詩織を見た。その顔には「詩織だけを残して去りたくはない」という思いがありありと浮かんでいる。それが分からないわけではないけれど、「触らぬ神に祟りなし」。無闇に山を荒らすことをしなければ大丈夫じゃないだろうか?荒らしてる妖怪を退治に行くのだから。

それがこの先を狂わす最大の誤りと気付く事は、誰にも出来なかった。

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