13

シャラン
と、涼やかな音を奏でた。 シャランシャランと、音を奏でる一方ではらりはらりと白い絹の千早が舞揺れる。
九十九神社の祭り当日。
程よく下りた夜の帳。
出店の並ぶ通りの向こう、吊るされた提灯が導く先にある神楽殿で、詩織は人々の視線を感じながら神楽を舞う。
シャラン
次の動きは考えずとも体が覚えているので詩織は無心に舞った。
流れる笛の音に合わせてシャラン。
鬼神に捧ぐ神楽というのも奇妙だし、奉る祭りもおかしな事だが、これらはあくまで人によって鬼になった神への贖罪。 また人を好きになってくれるようにと正の感情を持った人間を集めるための儀式だそう。
だからその思いを込めて、今年もここで神楽を舞おう。


「詩織ちゃーーーーーんムガッ!!」
「うるさい」

舞終えた詩織が軽装に着替えて外へ出ると、待ち伏せていたらしく突進してきた友人を片手で受け止めた。
多少噎せてはいるがいつものことなので大丈夫だろう。むしろもう少し学習能力を持って欲しいと思うが、こんな彼女は何気に学年一位の成績だ。解せぬ。

「巫女な詩織ちゃん綺麗!!写真撮ってい?」
「事務所通したら」

など言い終わる前にパシャリと撮られる気配がしたので懐から素早く面を取り出してガード。 案の定、ご丁寧にフラッシュまでたいた彼女は突然写り込んだ面に驚き、次いで爆笑した。

「ブフッちょっ詩織ちゃん何それ!」
「ナンパ避け」
「なるへそー」

妖に扮するために使っていた犬面も、こんな時にはナンパ避けに早変わりだ。 そんな事より!と詩織の手を引いて祭りへ繰り出す。

「もうお勤め終わりなんでしょ?」
「一応、私の大仕事は神楽だから…運営は姉さんに任せてる」

やっと一緒に楽しめるねと輝かしい笑顔で言った彼女の目線はしかし既に詩織には無く、

「イカ焼き焼きそば焼き鳥綿あめりんご飴…」

食べ物ばかりの屋台へクルクル回る。
詩織が苦笑し、強引ながら一緒にいてなかなか楽しいこの友人に付き合ってやろうと足を踏み出そうとすれば自分の手を握る友人の足が進んでない事に気付いた。

「?おい、どうし…」
「やだッミステリアス系イケメンキタコレ!」
「は?」

突然意味不明なことを叫んだ友人に顔を上げるとかち合う瞳。

「こんばんは。そしてお久しぶりですね、詩織」
「せい、じ…っ」

片目で見つめる彼に、ヒュッと喉の奥が鳴った。


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