「うーむ」

私が思うに、DIO様の寝顔がやたらと美しいのは、100年寝てたから。継続は力なりって言うし、睡眠し続けることで遂に此れ程までに美しい寝方を会得できたんだよ。
或いはこうとも考えられるな、防衛。無防備だったとしても、これだけ美しかったら何人(海底に人はいないけど)たりとも手を出せないだろう。

突如、ガシッと首根っこを掴まれた。
圧迫された首からは「ウェッ」っと声が上がりかけるが、慌てて口を押さえる。
DIO様の眠りを妨げるわけにはいかない!

「……。」

後ろからの威圧感が誰のものかは明白だ。
更に確証が欲しいならば、チラと目線を横に向ければいい。筋肉がガッチリついている、かなり、かなり健康的な足を惜し気もなく露出させている人などこの館には1人しかいないのだから。

「ヴァニラさん…」

心の中で呟くのと、ヴァニラさんがズルーゥっと私を部屋から出すのがほぼ同時だった。


「DIO様の部屋に忍び込むなとあれ程言っているだろう。何故言うことをきかない。」

正座した私の前に仁王立ちするヴァニラさんは何時にも増してでかい。上目で見たら生足から股間までしか目に入らないから思い切って首ごと上に向けるか、思い切り俯くに限る。今日の私は上を選択した。
うーん、筋肉、壮観。
DIO様のそれも大変立派なものだが、DIO様を拝見するときは顔面の美しさにばかり注目がいってしまう。
その点ヴァニラさんは…いや、ヴァニラさんが美しくないって言ってるわけじゃなくてね…とにかくヴァニラさんは筋骨隆々だ。やっぱりトレーニングしているんだろうか。今まで探しもしなかったが、館にトレーニングルームでもあるんだろうか。テレンスさんに訊いてみよう。

「テレンスさんに訊いてみよう。」
「何?ふざけているのか?」
「えっ、すみません!ふざけていません!……何でしたっけ…?」
「……。」

恐い。ヴァニラさんの眉間に皺が寄りすぎてそのままブシュウと裂けそうだ。

「すみません…DIO様が…」
「DIO様がどうした!?」

食い気味に言いながらしゃがみ込んで私の顔に顔を近付けて来るので、色んな意味で引きながら急いで答える。

「DIO様が美しいから!」
「……。」

暫くの間、ヴァニラさんは私の方にググーッと近付いたままで、私は逆方向にググーッと仰け反ったままで、全体重が乗った正座した足首辺りが静かな悲鳴を上げ出した辺りで、漸くヴァニラさんがフッと笑んで離れた。
大変に微妙な表情を浮かべる私を知ってか知らずか、ヴァニラさんは微笑みを浮かべたままで頷く。

「そうだな。DIO様は確かに美しい。」

成る程DIO様のお顔をじっくり思い出していたのか。
そう思うと、私も嬉しくなる。

「ですよね、本当にお美しいですよね、高貴というか貫禄があるというか。」
「ああ、誇り高いというか、揺るぎが無いというか。」
「控え目に言ってもミケランジェロというか。」
「控え目に言わなかったらもはや神だな。いや、DIO様だな。」
「あ、分かります分かります、DIO様という美そのもの?」
「DIO様は美という概念に値する、か…」
「凄く良いです、それ!美しいの代わりにDIO様と言いましょう、今度から!」
「ふむ…何々はDIO様のようだ、と。」
「もっと簡単に、DIOるとかどうですかね、この花DIOってるわー、みたいな。」
「ふざけるな、花ごときがDIO様と対等になれると思っているのか。」
「すみません、世界中の花をガオンとしそうなその顔止めてください!」
「やはりDIO様はDIO様だな。絶対的にして唯一無二の美だ。」
「そうですね!では、話が纏まった所で失礼します。」
「ああ、また共に語ろう。」
「はい是非とも!」
「…待て、私は貴様に何故DIO様のお部屋に忍び込むかと訊いたのだ。」
「そうだった!」

お互い調子に乗ってベラベラ話しちゃいましたね、恥ずかしい!なんてヴァニラさん相手に言えるわけが無い。
しかしそもそも私は美しいが故にDIO様を眺めたいのだから質問には答えていることになる。

「ヴァニラさん、私はDIO様が美しいからお部屋に行くのです。」
「そんな理由で許可できるか。」
「なんでですか!」
「それでDIO様の眠りを妨げたらどうする。」
「妨げませんよ!あの美しい寝顔を守るために私がどれだけの注意を払っているか!」
「貴様がDIO様を守るだと?聞いて呆れるな。」
「酷い!私だってちゃんと…ちゃんと…えーと…」
「……。」
「やめて下さいその目!えーと…て、テレンスさんのお手伝いしています!」
「余りに暇そうにする貴様を見兼ねて、仕事を分け与えてやるように言ったのは他でも無いDIO様だ。」
「えっ、そうなの!?」
「どうだ、自分がどれだけDIO様に依存しているか分かったか。おい、聞いているのか?」

此れは驚いた。
DIO様がまさかそんなにも私を見て下さっているなど思いもしなかった。
DIO様とは昼夜逆転する生活なので存在を忘れられていると思っていた。
此れは嬉しい。
あの美しいお顔が一瞬でも私の事を思案したと思うと

「この身が打ち震えます!」
「貴様、聞いているのかと言っている!」
「えっ、すみません!」
「大体において後からやって来た癖に貴様は図々しいのだ。このヴァニラ・アイスでさえDIO様の寝顔をじっくり拝見したことなど…」
「無いんですか?ずっと部下なのに?」
「……。」
「すみません、無言でクリーム出すのやめて下さい!」
「嗚呼、何故此のような小娘の侵入を許されるのです、DIO様ッ…」
「それは私も思います。突然記憶も無く現れた上に、皆さんが使われるような超能力も無いし…ただクリームとか見えるだけだし…」
「だがDIO様の意思とあっては背くことは出来ん。」
「はい、是非背かないで下さい…。……でもヴァニラさん。」
「何だ?」
「DIO様に禁止されてるんですか?」
「何がだ。」
「寝顔を見ること。」
「言われずとも常識的に考えればそのようなことは許されぬと分かるだろう!」

でも、と私は首を捻る。
常識って何だろうと最近よく考えるのだ。
私の私である記憶はこの館の一室で目を覚ました所からしか無い。
第一発見者のDIO様にここ1ヶ月養って貰っている。
それでも、DIO様を含め館を訪れる人たちが常識的には考えられない力を持っていることは分かる。
館の生活そのものも、もっと言えば私の存在だって、多分常識でない。
だとすれば私は何を信じて生活していけばいいのか。
確実に在るものは。

「私の常識はDIO様にしようかと。」
「何を言っている。」
「DIO様です。DIO様の意思があって、その上で考えてみようって。だから、DIO様が無駄って言わないことで、自分が良いって思ったことなら、取り敢えずはいいかなって。」
「DIO様の意思が在るならば最早自ら考える必要は無い。」
「そうですかね…いや、それにしたって、DIO様は、寝顔見るなって意思は無いかも知れないじゃないですか!」
「また屁理屈を…」
「そもそもDIO様みたいに凄い人なら、私に寝顔くらい見られたって、痛くも痒くも無いですって!」
「……。」
「ね?」

ヴァニラさんは難しい顔で腕を組み、唸っていたが、やがて息を吐いた。

「一理あるかも知れん。」
「やった!」

私は思わず両手を高く上げた。ヴァニラさんは踵を返す。

「あれ、ヴァニラさん何処へ?」
「寝室だ。」
「誰の?」
「DIO様のだ。」
「えっ」

待って待ってとヴァニラさんの腰布辺りにしがみつく。
ヴァニラさんは構わずのしのし歩いて行きそうになるので、布が千切れる前に腰に腕を回すが、筋肉で上手くしがみつけない。

「離せ。」
「なんで行くですか!」
「今からDIO様の寝顔を拝見する。」
「それは私の特権ですよ!」
「何時誰が決めた!」
「誰も決めてませんけど!」
「離せ!」
「嫌ですーッ、ヴァニラさんがいたらおっきくてDIO様が隠れちゃうーッ、私のベストポジションが奪われるーッ」
「ええい、諦めろ、今まで一人で見ていただろうが!」
「やだーッ」


「ザ・ワールド」


ギャアギャアと叫んでいた私達は一瞬にして口を閉ざす。
何時の間にかDIO様が横に立っていた。
私達は部屋の前で身動ぎもできない。
そう、私達が熱い議論を繰り広げていたのは、他でも無いDIO様の部屋の前だったのだ。
DIO様は、くあ、と小さな欠伸を噛み殺し、若干眠そうに目を擦った後、私をひょいと摘み上げ、ヴァニラさんの太い腕を掴んだ。そのまま部屋の中に入る。
暗くて広いDIO様の部屋は、酷く良い匂いがする。
一言も発しない私達に構う事無く、DIO様は素晴らしく大きいベッドに私達を放り投げる。(流石に放ることはできないヴァニラさんのことは押し上がらせる。)
そして私を跨いで、私とヴァニラさんの真ん中にDIO様は収まった。
軽くて滑々した布を、私達三人に綺麗に掛けて、漸くDIO様は目を瞑りながら言った。

「このDIOが起きるまでそこで静かにしていろ。」

私とヴァニラさんは乙女の様に頬を赤らめ、「はい」と答えるしか無い。
それを聞いて口元に笑みを浮かべたDIO様は、今、この世の何よりも、DIOっている。





おまけ
「テレンス。」
「どうなさいました?」
「あの2人は?」
「ああ、そのことですが。」
「?」
「何かあったのですか。真っ赤な顔で2人でずっと囁きあってはニヤニヤしているので気持ち悪くて気持ち悪くて…」
「……。」
「それで2人は胸がいっぱいで食事を取れないということです。」
「ふむ…共に食事が出来ないとなると考えものだな。やはりきっぱり無駄と言うべきか…。」
「?」




あとがき
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