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---事の顛末は。
その日、所用で高杉と私が調度二人で出掛けた際、鬼兵隊を疎んでいる春雨の一部の過激派に襲撃された。
もちろん、それが春雨の総意である筈は無く、私達を襲った者への粛正と、鬼兵隊の大幅な譲歩によって事態は一応解決した。
私達を襲撃した彼らはなかなかの手練れで、その戦いの最中、私は高杉の背中を護って負傷した。
己が進むその畦道に誰が転がろうが関係ない、その言葉のままに。
私がただ彼を護りたくて動き、そうして負傷しただけの事。
そして、それは彼には全く関係無い。
---しかし---
「高杉!!」
乱戦の中で私は、彼の死角から現れた凶刃に反応し、叫ぶが早いか飛び出していた。
「---っ!!」
次の瞬間には鋭い傷み。
「---さくら!」
高杉が私に振り返る。
彼が私の名を呼び、私に意識を向けた事が意外でならず、故に、私の動きも一瞬止まったほどだ。
高杉---彼が見据えるはただ前のみ。
その周りに何が転がろうが、誰の屍が積まれようが、決して振り返る事は無いと思っていたのに。
「てめェ、何してやがんだ。」
私と高杉で背中を合わせに位置を取り、刀を構えながら高杉は、まるで吐き捨てるように言った。
---余計なことを、とでも言いたげに。
私も負けじと言い返す。
「文句言うくらいなら、庇われる前に動いてみせろ。」
「…ククッ、言うじゃねェか。」
高杉の冷めた笑いがあまりにいつもの調子で、形勢不利なこの状況が大したものではなないような気にさえなって来る。
つい、微苦笑が漏れた。
「…相変わらずだな、高杉。
とは言え、私はもう手負いだ。このまま共にいればお前の足手まといになる。」
目だけを動かして、高杉を一瞥する。
「高杉、あんた一人で行って。ここは私が引き受ける。」
何とか死守してやるから、だから、あんたはとりあえず生きぬいて。
総督を護れなかったら、隊員にどつかれるのは私。
そんなのは御免だ。
「---俺を逃がす為にテメェで命張ろうってのか?」
俺は構わねェがよ、と高杉は嘲笑う。
誰が散ろうが構わない。
それをあんたは信念としてるのかもしれないけど。
言っておくわ。
そんな振り、私には通用しない。
あんたは私に見せてしまったんだから。
---それは、私が斬られ、高杉が振り向いたその一瞬。
彼の碧の隻眼の奥で、確かにゆらいだ感情。
私はその意味を理解してしまったから。
だから私は、こう答えたんだよ。
「あんたを助ける為に死ぬなんてまっぴら御免。
四肢が切り落とされても生き抜いて、必ずあんたの所に帰ってやる。」
だから安心して。
私は死なない。
高杉は返事をしなかった。
それぞれに、対峙する相手を睨み遣る。
一呼吸置いた後、私達の背中は離れた。
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