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『…私をぶった斬った張本人がよく言うわ。』
私は、床に頬をつけた姿勢のまま唸った。
何故私がこんな冷たい獄に繋がれているかって?
それは間者である事がバレて、逃げきれずに袋叩きにされたからで。
そう、そんな私に止めの一撃を喰らわして来たのがこの片目の男。
だが別に恨んではいない。
この男も、春雨という組織の中の一人として、立ち位置がそういう役回りだったのだろうから。
ただ、斬った相手を目の前によくもまぁしゃあしゃあと言えるものねとは思う。
『生きたいなら足掻け、だって?』
私は精一杯の皮肉のつもりで吐き捨てるように言ってやった。
『夜兎の剛力でもびくともしない堅牢なんだ。
それに、この怪我に手枷足枷。どうやって何を足掻けと?足掻けるはずないでしょう。』
「んなこたァ俺が知るかよ。」
ばっさりと切り捨てられた。
あ〜もう、何なのこいつ。
ほんっと綺麗なのは見てくれだけね。
口を開くとマジで最悪。
『あんた何?私に喧嘩売ってんの?ていうか、前々から思ってたけど、人が獄の中でくたばってる前で薄笑い浮かべてフラッフラすんのやめてくれる?本気で腹立つ。』
「てめーが地べたからメンチきってくるからだろうが。」
『きってないわ!』
睨んでいたつもりはない。
ただ、牢の前を通るあんたを見つめてたんだよ。
だって、あんたさぁ----
「晋助。こんなところにいたでござるか。」
言いかけたところで、遮られた。
カツカツという靴音が近づいて来、頭上からまた新たな声。
独特の言葉使いと抑揚。
「そろそろ時間でござるよ。遅れては困るでござろう?あの御仁は小言が多そうでござるからなぁ。」
「あァ。わかっている。」
こいつは、まるで馬鹿にしているみたいな喉をクツクツと鳴らす笑い方をして、おもむろに頷いた。
床に伏している私の目の前で、彼の足が踵を返す。
「じゃァな、天人のお嬢さん。
せいぜいくたばらねェように頑張んな。」
そう言って、憎たらしげな含み笑いを残してもう一人の男と牢を出て行く。
『…言われなくたって生きてやるんだから。』
私が生きたいと望んでいる事を知っている上で挑発して来るような笑みが腹立たしい。
『あんたってほんっとひねくれてるわ。』
聴こえていないだろうけれど、思い切り低い声で唸ってやった。
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