【2009坂本辰馬生誕記念】




「陸奥〜。迎えに来とーせ〜。」

辰馬は手にした星間無線相手に頭を下げていた。

乗っていた小型の宇宙挺が操縦不能となり、急遽近くの小惑星に不時着する羽目になった。

一人乗りの小さな偵察挺の為、食糧は殆んど積んでおらず、何せ独りきりで心細いと言ったらない。

大義の為なら死もいとわないと豪語しているが、散歩気分でふらりと出掛け、宇宙挺が壊れた為に見知らぬ惑星で孤独死なんて、それはあまりに悲しすぎる。

泣きついてくる辰馬に、通信口で陸奥は深々とため息をついた。

「…わかった。そのうち暇になって気が向いたら迎えに行くちや。それまでに宇宙生物にでもキ○タマ食べられちゃって〜。」

プツッ---…。


そうして通信は途絶えた。


杜撰というかぞんざいな回答だったが、辰馬は明るく笑う。

「アッハッハ。陸奥は相変わらずじゃのぅ。あんな事言っちょっても優しいからのぅ。」


これで安心じゃ。


気が楽になった辰馬は、宇宙挺の外に出てみる事にした。

宇宙挺のコンピュータでざっと調べてみると、この惑星は、一時間もあれば徒歩で優に一周できてしまえる程小さく、また地表から大気に至るまでの構成物は実に地球と似ていた。

加えて生物反応も無し。

そんな理由で、散策しても安全だろうと判断したのだった。




てくてくと平らな地面を歩く。

その地表は水晶か何かのようで、見上げる宇宙がそのままま鏡のように映し出されている。

それはまるで、宇宙の真ん中を歩いているようだった。




しばらく歩くと、驚くべきものが目に飛び込んで来た。

「…こ、子供じゃ!」

栗色の髪をした小さな女の子が目の前を歩いていた。

「ち、ちっくと!待ちぃ!」

辰馬は慌ててその子に駆け寄る。
振り返った彼女は、かわいらしい顔をしているが、少し生意気そうだ。

彼女はじっとこちらを見て来るが、辰馬よりも遠くを見ているようだった。

「おまん、こんなところで何しちゅう?」

とりあえず、保護しようと手を伸ばすと----

「!?」

ふっ、と消えてしまった。


「……まっこと……。」

不思議な現象に辰馬はぽかんと立ち尽くす。

まるで、幽霊か何かのようではないか。

しかし、恐怖とかそういうものは何も感じなかった。


(…けんど、誰かによく似ちょった気が…。)


辰馬は、首を傾げながらも、もう少し散策を続ける事にした。



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