計画的犯行施策 1
【5.計画的犯行施策】
2時限目の休み時間。
(……あたしって、やればできる子なんだ。)
胸中で思った。
驚くべき発見。
廊下には2年生の中間テストの順位が貼り出されていた。
あたしの順位はなんと、学年で3位。
ちょっと真面目に授業を受けて、テスト前にさらっと復習しただけなのに。
これは自惚れても許されるだろう。
(…まぁ、留年して2度目だしね…。)
内心、苦笑する。
「へェ、3位か。」
頭上から声がした。
「えっ、」
声のした方を見上げると、白衣のポケットに手を突っ込んで、あたしと同じように順位表を眺める高杉先生がいた。
「すげェじゃねーか。」
顎に手をあてて、本気で関心しているような表情で先生は言う。
そんなものだから褒められた事は素直に嬉しくて、つい笑顔になる。
「見直しました?」
「それはどうだか。」
まぁ、この人が他人を褒めるような性格ではないのは判っている事で、先生はすぐ、相変わらずのしゃあしゃあとした調子に戻って、フッと鼻で笑った。
けれど、そんな笑みもあたしに向けられたものなのだ、と嬉しく思ってしまう。
「それどういう意味で---」
ふざけて返事をしようと口を開いたところで、
「---さくら、」
背後から名前を呼ばれた。
そちらに首を捻ってみれば、
「すげー、学年3位。」
「頭いーな、お前。」
あたしより一歩後ろの両隣に、沖田くんと土方くんの姿があった。
「ダブりだし大した事ないよ。
それよりどうしたの、2年の階まで来て。」
順位表を眺めて、「ほー」とか「へー」とか感心している二人に向き直る。
「昼メシ。誘いに来やした。一緒食おうぜ。」
「え?あ、いいの?」
「いいから誘いに来てんだろィ。」
「ありがとう。」
ニッと微笑んで言う沖田くんに、あたしも笑顔で頷く。
「今日は弁当持って来てんのか?」
「あ、えっと、今日は購買で買おうと…、」
「パンでよけりゃ俺のやるぜ。部活で腹へるから買いだめして来たんだ。」
土方くんが、ガサッと大きな紙袋を掲げてみせた。
確かに何やらたくさん入っていそうだ。
「いいの?」
「あぁ。」
「じゃあ、お昼それ頂くね。」
土方くんは根本的に気配り上手。
というか、それが素でできてる人で、いつも優しい。
「ありがとう。」
あたしがお礼を言うと、少し気恥ずかしそうに肩をすくめた。
「いいって。じゃ、昼休み屋上な。」
「うん。」
「あとよ、」
キーンコーン…
そこで、タイミング悪く始業のチャイムが鳴った。
「ちっ、」
土方くんは嘆息混じりに舌打ちをする。
「じゃあ、後で言うわ。昼休みな。」
「うん。」
「おら急げ、総悟。」
「ヘイヘイ。じゃーな、さくら。」
タラタラと歩く沖田くんと、彼をせっつきながら駆け足の土方くんを軽く手を振って見送った。
そうして直ぐ様振り返る。
が、予期した通り、そこにはもう誰もいない。
(…そりゃ、いないか…。)
既に高杉先生の姿はなくなっていた。
(あたしが話してるうちに保健室に戻っちゃったかな…。)
せっかく話しかけてくれたのに、もう少し話ができればよかったな、なんて、そんな事を思って、小さくため息をつく。
次の授業は何だっけ。
とりあえず、出るだけ出ておこうか。
仕方なく教室に戻る事にした。
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