「燥ぎすぎたな、サム」
「せやな、ツム」
第3セット、最後の得点は烏野に取られて俺たちの春は終わった。
ありがとうございました、と声が体育館に響く。そのあとに響くのは罵倒でもなく暖かな拍手おっさんが侑にいつだって賞賛だと叫んでいたのでどうせ侑が顔に出ていたのだろう。
「ぼーっとしてへんでさっさとせぇ」
「おん、」
体育館の奥を見れば梟谷が試合をしていてそのベンチには名前さんの姿がなかった。
「名前さんじゃない人がおる」
「そらあそこマネ3人おったし、誰か1人しか入れへんからな。違う子入っとるんやろ。」
「…そうか」
考える思考をやめて、体育館を後にする。
頭では負けたということがわかっているがどうも気持ちが追いつかない。いつか追いつくとは思うがまだその気持ちは追いつかない。
北さんの言葉で余計に、あぁもうこの人らとバレーできんのかと思うとまた心が苦しくなった。
「治くん、」
「アレ、名前…さん?」
「はぁい」
「え、試合は?勝ったよ。木兎がみやんずともやりたかったーって騒いでた。」
「…」
おめでとうございます。がきっと正解であろう、でも今言葉にするのが辛かった。
察したのか、名前さんはストンと俺の隣に座り込んですこしだけ話を聞いてと、話し出した。
「あのIHの日、あぁ、これが噂に聞く宮兄弟かぁ、っておもった。」
「でもちゃんと話せばただの高校生だし、ちゃんと進路に悩んだりしてて、私と変わらないっておもったの」
「少しづつ少しづつ治くんのお話聞いて、数えるくらいだけど治くんと会ったりして、こないだ治くんに好きって言ってもらえて」
「幸せだなぁっておもった」
冬の冷たい風が吹き抜けて汗で濡れた俺は少し肌寒く感じる。それに気づいた名前さんは自分が使っていただろうホッカイロを俺に渡して顔を向けた。
「教えてもらったんだ。私は治くんが好きだって」
「え?」
「教えてもらって気づく恋があったっていいって。」
「え、だれに?」
「かおり!」
「あぁ、友達………」
告白でもされたんかと思ってしまった。
自分が知らないところで、いややな。そんなん。
「で、お返事したのだけれど」
「あ、ハイ。えっと」
「負けてカッコつかないとか、そんなこと言ったら末代まで呪ってやる」
「そんなこというひとでしたっけ?!」
「ふふふ!ねぇ、治くん、わたし治くんのこと好きだよ」
「〜〜〜、お、おれも!俺も、名前さんがすきです!ご飯食べてるところも話聞いてくれるところも電話越しの声も!全部好きやから、おれと付き合うてください!」
「私でよければ」
にっこりと笑う名前さんは最初に出会った頃と変わらない優しい顔で笑っていて思わず飛びついて抱きしめた。
遠くで木兎やら侑やらの声が聞こえてきた気がするがそんなの気に留めてなんていられない。
「ねぇ、治くん」
「はい?」
「わたしね、好物は最後まで取っておくの。」
「はぁ」
「自分のものは絶対取られないように大切にしまい込んじゃうよ?」
「…!おれもやから安心して。」
その言葉の意味を理解して試合に負けたことなぞ忘れたようにしばらくその場で2人で座り込んでいた。
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