―――ガウン!ガウン!
後ろで発砲の音がして彼女のすぐそばの壁が崩れるが、ひたすら前を向いて心を無にしてただ只管に逃げた。銃声が轟いたせいか、暗かった部屋の灯りが次々と灯され廊下にも灯りが漏れ出し薄暗かった屋敷中が除叙に明るくなっいく。人の気配で騒がしくなってきたが、パロマは走った。廊下を抜け階段を下り、また廊下を走り、洗濯場から庭に出るまで、がむしゃらに走り続けた。まだパロマが何かしでかした事は伝わっていないのだろう、屋敷中騒然としていたが、庭にはまだ誰も出てきてはいない。いつもはシーツで埋め尽くされているポールまで辿り着くと、パロマは無意識に帽子屋敷を振り返った。
二階の一室、窓から繋がるベランダにはブラッドが立っていた。
―――あっ・・・
ブラッドとパロマの視線がぶつかった。
果てしなく長い様な、それでいて瞬き程の一瞬だった。
パロマは踵を返して森の中へ駆け出す。それからは一度も後ろを振り向かなかった。