19
夜も深まりお茶会がお開きになったその後、物騒な部屋で双子のディーとダムが密談をしていた。
大小の刃物が部屋の四方八方でギラギラ光り、どれも鋭利に磨かれている。今にも火を噴きそうなドラゴンの置物が二対、部屋に来る者を脅かしている。ここはディーとダムに与えられた彼らの私室だ。
「何だか、最近パロマが付け上がっている気がしない?兄弟。」
「そうそう、自分が奴隷だって言う事忘れているよね、兄弟。」
二人は身長程の斧を丁寧に手入れしながら会話をしていた。各々テーブルに面したソファとロッキングチェアに座って磨きあげているが、斧の先が際どい所まで滑る程間近でやっているのに、お互いには全く掠らない。絶妙なタイミングで斧が二人の間を交差していた。
「あいつには自分が何なのか、知らしめた方が良いよね。」
「最近しっかり遊んであげなかったから、休み返上で準備に取り掛かろうよ。」
二人の目が、夜中に妖しく光り輝いた。





「失礼しまぁす。」
パロマは箒と小脇に包み紙を抱えて、ドアをノックする。一応一礼してから入った部屋はブラッドの仕事部屋だ。最近はブラッドが仕事をしていようが、パロマは自分の仕事を黙々とこなすことにしている。ブラッドも特に何も言わないので、勝手に了承を得ていると思っていた。
ブラッドが書類に目を落としたまま、何か思案気に徐に机の上を探る。するとブラッドの頭上で紙の擦れる音がしたので、片肘をついたまま目線を上げると、パロマが笑顔で硬くコーティングされた羊皮紙を差し出していた。
「はい、どうぞ。」
「―――どうして分かったんだ・・・?」
「ずっと見ているんですから、分かります。考えながら左手をパタパタしている時は、近くにある筈の地図を探しているでしょ。後は首の後ろを擦った時は、そろそろ紅茶が飲みたいな、のサインだし。」
パロマは屈託のない笑顔でサイドテーブルに花瓶を置いて、色どり豊かな花を生ける。先程持っていた包み紙の中身は、庭に咲いた花達だった。
「他にもありますよ。エリオットさんは何か思いつくと、急に振り返るから真後ろに立っていては確実にぶつかるので、数歩後ろを歩いた方が良いんです。ディーとダムはああ見えて私の仕事がすっごく大変な時、手伝ってくれたりもするんですよ。」
生け終わった花瓶を満足げに眺めてから、
「―――でも、一番見ているのはボスの事だから、わたし、ボスの事だったら結構分かるようになったと思います。」
パロマは胸を張って、大柄張りでそう告げた。
(なんだ、こいつ。探りを入れているのか?しかし、探っているというより・・・むしろ―――)
彼女は花を生け終わるとクルッと向きを変え、次はパタパタとブラッドの後ろを通り過ぎる。
パロマは空気の入れ替えをしようと窓に近付くと、裏庭が一望できるのに気が付いた。さっき干したばかりのシーツ類が、風でフワフワと揺れている。
窓を大きく開けてから、今度は向かいの扉も一気に開ける。すると、廊下の窓も開いていたせいか、部屋の中に突風が吹き抜けた。あっと思った時には、風がブラッドの机の書類を物の見事にさらい、窓の外へ誘ってしまう。庭に白い紙が沢山舞っているのを呆然と見ていたパロマに、当然上司が話しかける。
「おい。そこのストーカー。」
ニッコリしたブラッドが今度は冷酷な表情になり、
「拾いに行け、今すぐだ。」
「は、はいい!!!」
ブラッドが冷たく言い放ったと同時に、パロマは瞬時に頭を下げて部屋から飛び出した。





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