10
「そんなに腹空かして突っ立ってられると、こっちが不味くなるんだよ。ほらっこれでも食え。」
エリオットが呆れ顔でそう言うと、パロマの目の前に皿を差し出してきた。上にはオレンジ色をしたシフォンケーキが豪快に乗っている。パロマは思わず両手で皿を受け止め暫し茫然とケーキを見つめていたが、ハッと我に返った。
「あ、ありがとうございます。ウサギさん!!」
パロマはにっこり満面の笑みをエリオットに返し、しっかりお皿を抱え込んでスキップでもする位嬉しそうに、その場から立ち去った。
俺はウサギじゃねー!と遠くで大声がして何発か銃声が聞こえたが、彼女には全く気にならなかった。



パロマは支給の途中だったのもすっかり忘れて、上機嫌で自分に与えられた小部屋のドアを開けた。窓際の小さい机に、両手で大事に抱えたお皿をそっと置く。そこに乗っているのは、自分が目星を付けていた香りも芳しいお菓子達ではなかったが、それでもいままで食べた事もないような繊細なデザートだった。
さっそく椅子に座って、ひと匙すくい口に運ぶ。口の中では何とも言えない幸福の味が染みわたった。ゆっくりその一口の味を堪能してから、自分用にとお茶の準備に取り掛かり、ふと紅茶を飲んでいた時のブラッドの顔を思い出した。感情の見えない顔だったが、眼光はいつもにはなく鋭かった。
―――まさか毒でも入っているかと思ったのかな。
冗談まがいにそう思いながら、また一口食べて、その美味しさに小躍りするパロマだった。



prev next

32(348)

bkm


top

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -