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この前同じ状態の彼女を見かけたのは、昼下がりの長閑な時間帯でだった。麗らかか陽気に似合わず、何人かの女性に金切り声の罵声を浴びせられながら追われていた。数分もしない内に追っていた女性達が怒りも露わに露店街をさ迷っていたので、その時はうまく逃げ遂せた様だったが―――
近くのエリート学校の制服に身を包んだ彼女は後ろを警戒しつつ、綺麗なブルネットの髪を靡かせながらアリスの側を通り過ぎて行く。彼女の姿が見えなくなって少ししてから、厳つい格好の男達が足を踏み鳴らして走ってきた。どうやら今度は彼らから逃げていたらしい。
しかし、アリスは彼女の逃げた方向が気になった。この前、路地裏にある密集した民家の一区間で大火事があり、彼女の向かった道の先は通行止めの柵が張り巡らされている筈。しかも今にも太陽が隠れてしまいそうな夕暮れ時、人気のない立ち入り禁止区域でもし捕まってしまったら、闇夜に包まれて、誰にも助けを求められないだろう。
アリスは差し出がましいかと思いながらも、彼女が向かった先に足を進めた。
すると案の定、瓦礫の山に塞がれた道の手前で、袋小路に陥った少女が幾人かの男に取り囲まれていたのだった。サッと物陰に隠れて、様子を伺う。
「へっへ、ここで観念しな。ったく手間掛けさせやがって、もう逃げられないだろ。」
「身ぐるみ剥がされたくなかったら、お上品にご自分で脱いでみな。」
彼等の背姿に見覚えがあった。
(ああ!あいつ等この前コテンパンにやっつけた不良達じゃないの!!まだ懲りてないのね?!)
下品な笑い声を上げるあたかもチンピラ風情の彼らは、1人では何も出来ない弱虫の集まりだ。以前アリスは彼らの目に余る行儀の悪さに、怒りに任せて半殺しの目にあわせた事がある。そこまでするつもりは無かったのだが、街の群衆に持て囃されたのと、彼等が余りにも弱過ぎたのとで、結果としてそうなってしまった。今でもその近辺を歩くとアリスはちょっとしたスターだ。
彼女を追っている人物達が、そんなに大物ではないと分かったので、アリスは堂々と彼女を助けに向かった。
「ちょっとあんた達!いい加減にしなさいよ!!」
聞き覚えがある声がして彼らは一斉に振り返った。勇み足で現れたアリスに気付き、イヤらしくニヤけていた彼らが揃いも揃って真っ青に変わる。
「やばい!!あいつだ!怪力の鬼婆ぁがやってきやがったっ」
「何で、こんな所に二本角の妖怪が・・・・げっ!!マジでまずいって!!」
ヒソヒソ声がダダ漏れだった為、アリスの顔が見る見る鬼婆ぁに変化する。これ見よがしにアリスが肩を回したら、彼らは明らかにビクッと縮こまってアタフタと逃げ惑った。アリスによって道を塞がれた彼らは、立ち入り禁止のテープを跨ぎまだ収拾がついていない焼け野原へと勝手に入って行ってしまった。余程アリスが怖いのか、崩れる瓦礫の山を滑って転んで、土に汚れながらも我武者羅に両手足を使ってよじ登る始末。
そして「覚えていろよ!」とお決まりの捨て台詞を吐くと、尻尾を巻いて散々に逃げて行った。


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bkm


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