18
パロマはアリスに連れられて、客間の一室に通された。
恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れる。
たっぷりとしたレースのカーテンは、金糸で綺麗に縁取りされたタッセルでふんわりと集められている。白く塗装された優雅な猫脚のテーブルと、ベビーピンクのソファが愛らしい世界感を作り出していた。
「お茶の準備が整いました。どうぞこちらに。」
何時からいたのか、お城のメイドらしき人物が部屋の中央テーブルの脇に背筋を伸ばして佇んでいた。気配を全く感じさせず、音も立てず、しかしテーブルの上には豪華なアフタヌーンティーの準備が万全に整っていた。
部屋中をキョロキョロと見回していたパロマが、あからさまにビクッと震え上がる。
(びっっっくりしたぁ・・・・・)
まさか人がいたとは。
また捕まえられやしないかと戦々恐々としているパロマとは違って、
「ありがとう。後は私がやるから、そこに置いておいてね。」
アリスは当然の様に奉仕させていた。
二人は知り合い同士なのか一言二言にこやかに言葉を交わしている。
お城の制服に身を包んだ女性が「それではお願いしますね。」と言い、手に持った白い陶器のティーポットをテーブルの上に置くと、アリスに向かって一礼し彼女は足音を立てずに部屋から退出した。
パタンと扉が閉まると、部屋の中は静寂に包まれる。
アリスに手招きされて、パロマは長ソファーにおずおずと腰を下ろした。
手慣れた手つきで、自分とパロマ用のティーカップに紅茶を注ぐ。
パロマはスコーンやタルトが乗った三段重ねのティ―スタンドを挟んで、アリスの作業をジッと見詰めていた。


この世界にとても馴染んでいるアリス。


廊下を歩いていても、すれ違う誰もがアリスに向かって笑顔で会釈していた。遠くでアリスに気付き、急いで駆け寄って「怪我は無かったか」と親身になって尋ねる者までいた。
ハートの城の家臣がアリスに近づく度に彼女も立ち止まり、心配性の彼等に対して苦笑いで対応していた。とても・・・とても、大事にされていた。
異世界だと言うだけで、アリスは不幸だと勝手に決め付けていた。
元の世界の方が、自分と同じ場所でなければ、彼女は笑顔でいられないと・・・
パロマの目の前にコトンとティーカップが置かれた。
「どうそ?」
声色は優しかったが、パロマはアリスがどんな表情をしているのか確認するのが怖くて、ずっと下を向いていた。
ルビー色の液体が自分の心と同じくユラユラと揺れる。
アリスは長ソファの向かいの1人掛けのソファに深く腰かけ、自分用のカップを手に持つ。香り立つ紅茶を一口、ゆっくりと喉に流すと、アリスはホッと肩の力を抜いた。
一息ついたアリスは、やっと向かいに座るパロマに視線を向けた。


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bkm


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