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「この城内に忍びこんだ曲者というのは貴方の事ですね。その汚らわしい格好だけですぐに見当が付きました。僕は触るのも御免被りたいので、自ら牢屋に戻って下さい。」
先に仕掛けてきたのはウサギ耳の彼の方だ。
「上辺だけ取り繕ってあたかも清潔に見せていても、心の中身が伴っていなければ、それは汚れているのと同じです。それならば私は内面の潔白を取ります。」
パロマも負けじと反撃する。
「誰が内面の話をしましたか?潔白と言う割に、やっている事は姑息で薄汚いですね。どうすればそんなにも胸を張って言えるのでしょうか。貴方の見識を疑いますよ。」
「あなたのその人を見下した態度の方が、よっぽどどうかしています!」
「罪人の分際でっ!その言葉、そっくりそのままお返し致しますよ。」
売り言葉に、買い言葉。
しんと静まり返った円形の広間に、二人の言葉の攻防戦が激しく響き渡った。
様子を伺っているのは、その場から動けぬ甲冑6体のみ。二人の言い争いを阻む者は誰もおらず、言葉の棘の鋭さは、酷さを増すばかりだった。
パロマは頭に血が上ってすっかり忘れていたが、後方ではビバルディ達がゆっくりではあるが確実に距離を縮めてきていた。やはり気品を忘れず小股で進む彼女は、後ろに控えた3人に対してプンスカと怒っている。
「ええい、おぬし達!何をちんたら歩いておる!!何故先に行ってあやつを捕まえぬのだ!この腰抜け共め!!」
ビバルディが後ろに向かって怒りの声を発した。
ドレープの美しいスカートを上品に持ち上げ、小股で移動するビバルディの歩く姿は優雅でそして洗練されていだが、逃走者を追うには向いていない。
「先程も申し上げましたが、敵の内通者が突然襲ってくる危険性もあるのです。陛下の身の安全が危ぶまれる状態では、如何せん動きようがございません。」
「女王陛下の逸るお気持ちも、十分に承知致しておりますが、今暫くのご辛抱を―――」
「御託を並べるでない!!」
控えの兵士に唾を吐きかける勢いで、ビバルディが一瞥した。すると今度は頭をぐるりと反対側に回して、やはり後ろに控えた騎士にも怒りをぶつける。
「エース、お前までもか!!もう立ち直ったのならば、直ちにわらわの命を遂行せい!呑気に小躍りしている場合ではないぞ!!」
「え〜、そうは仰ってもですね〜。主命とあらばすぐにでも取り掛かりたいのですが、陛下の御前より先を歩む等俺には恐れ多く、致しかねま〜す。」
言葉もどこか軽そうに、全く敬っては見えないエースが、ビバルディの後方で腕を頭に回して任務を放棄していた。
「しかも小躍りって、ヤダなぁ。これは無駄な時間を有効活用した筋肉トレーニングですよ。陛下もやってみます?最近運動不足で、出なくて良い所まで出ちゃっているのではないですか?」
「どこ見ておるのじゃこの腐れ騎士―!!今サラッと無駄と言ったな?!首を差し出せ!不敬罪で胴と頭を切り離してくれる!!!」
「はっはっはっは。それじゃいくら俺でも、死んじゃいますって。」
「シね!今すぐ地獄に堕ちろ!」
兵士二人は、やはりここでも変なとばっちりが来ないようにと、護衛ギリギリの絶妙な距離を開けている。
エースののらりくらりと会話をかわす態度にビバルディが業を煮やし、気品溢れる女王らしからぬ豪快な歯ぎしりをする。
「おぬし。先刻はわらわより前に平然と出ておったではないか。取って付けた様にほざきおって・・・・・ん?何だ、あれは。」


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bkm


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