16
向かって2番目の重厚な扉を力一杯押し開けて、先にある廊下へと急いだ。
廊下には兵隊が一列に整列したまま倒れている。
その姿を見てパロマは、夢の中で黒のポーンが列を成して、白いポーンに襲い掛かった時の事を思い出した。心音がまた激しく高まる。
(おっ、落ち付いてっ。誰も起きてはいないわ。)
しかしそうは思っても、彼らと飛び越える一歩が踏み出せない。自分の足元から先にゴロゴロと寝転がった集団に視線を落とした。
小さな駒が整列しているのとは訳が違う。
実際は、兵士一人でも背丈も肩幅もパロマを優に超す精悍な姿だ。そして、パロマの騒動のせいか、全員が甲冑で身を固めている。訓練を受けている優秀な兵士達は、倒れてもなお己の武器は誰も手放してはいない。きっと眠りから覚めて起き上がったらすぐ、その剣先は自分に向かってくるのだろう。
ここまでも大勢の兵士が動きを止めていた。もし一斉に動き出したらと考えてしまって、パロマは身震いがした。
「だっ駄目よ弱気になっちゃ!今は前に進む事だけを考えなきゃ。」
パロマが必死に首を振る。
そうでもしないと、すくんだ足は一歩も前には踏み出せそうにない。
彼らをあえて見ない様にしながら先へと向かう。すると、とうとう見覚えのある回廊に辿り着いた。アーチ型の天井、壮大なフレスコ画。長く、先の見えない通路。
『西の回廊』だ。
(ポケットを隠した部屋は、確かこの先にあるはず!!)
パロマはもはや足音も姿も隠さず、長い回廊を真っ直ぐに突き進んだ。ついさっき思い出してしまった恐怖心と、先をどうしても急いでしまう焦りで、今までの頑丈な警戒心が崩れてしまっていた。途中に転がった兵士で足をつっかえても、気遣う余裕が全く無い。
回廊の終わりを横に折れ、すぐにあるドアノブを無我夢中に回し、部屋の中へと飛び込む。彼女は久々の全力疾走の為、胸で忙しなく息をした。
「はぁ、はぁっ・・・・ここまでっ来られたなんて、し、信じられない。」
思わず力が抜けてしゃがみ込んでしまったが、時間が無いのですぐさま立ち上がり、目当ての陶器を探しにかかる。
「確か入ってすぐの右の4段目に・・・・・・」
しかし、何度探しても、目印を付けた陶器は見当たらなかった。
「あ、あれ?同じ入れ物ばっかりだとしても、置いた場所は覚えていた筈なんだけど。どうして?どうして見付からないの??」
念のため他の段も探してみた。そして今度は左側の棚へ。一つ一つを確認している暇はないので、扉近くを重点的に探してみたが、インクの染みが付いた陶器等一つも見当たらなかった。
「何でっ・・・ど、どどうして??」
こんな所で時間を使うのは想定外だったパロマは、オロオロと仕切りの間を行き来する。
軽くパニックだ。ここまで順調に来た分、小さなトラブルでも大きなダメージを受ける。
這いつくばって床に落ちていないか確かめていると、ふっと視界に黒い影が刺した。
それはパロマの後ろ、
廊下に面したドアに立ちはだかった・・・・・誰がいると言う事だ。
「!!!」
それに気付いたパロマは顔面蒼白になった。ゼンマイが切れかかった玩具の様に、ギギギと嫌々振り返る。


そこにいたのは―――


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bkm


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