08
『魔法の杖』、『宝部屋にバリア』、『最後の鍵』ときたら、いくら異世界だとしても、現実離れし過ぎている。少し考えればナイトメアが真面目に説明していないことに気付くだろうに、頼り所が彼しかないパロマは、真剣な面持ちで白のポーンの行動を目で追っている。
「正面に進むと橋が掛ったちょっとした中庭に繋がるのだが、そこには旅の扉が仕掛けてあって、うっかり入ると海の孤島にワープしてしまうので、その道も通ってはいけない。」
チェスの駒達も律儀な事に、ナイトメアの強引な設定に付き合っている。
一体の黒いポーンがトットットと歩くと、急に何かのトラップに引っ掛かったみたく、クルクルと回転し出しては、ポンっと姿を消した。
「ここまでは良いか?」
「は、はいっ。もう少しゆっくり話してくれませんか?しっかり覚えますので。」
詳しく説明してくれるナイトメアが実はニヤニヤと笑っているのを、自分の駒しか見ていないパロマは全く気付いていない。覚えた所で何になる、とはナイトメアの心の声だ。
ホワイトのポーンは周りの敵を気にしながらコソコソと動いている。動き方までパロマにそっくりだ。
「しかし、どうしても西の回廊を通らなければならないのか?アリスは二階にある客室の、南に向いた角部屋を与えられている。もしその部屋にいるとするなら、君は廊下を真っ直ぐ進んだ先の階段を上がるだけで辿り着けるのだが・・・。」
急に白のポーンがキョロキョロと前後に動く。
「西の回廊の先にある部屋にどうしても行かなくてはならないんです。その道順で教えて下さい。」
「よし、分かった。そうなると、一階部分を斜めに突っ切る手段になるな。遠回りすればする程城内は迷宮と化し、捕獲される危険も高まろう。しかし、一番の難関はここだ。」
ナイトメアが指差した先には不動のブラックカラ―のクィーンがいた。回りはポーン達が守りを固めている。パロマは緊張でゴクッと唾を飲み込んだ。
「横断すると言う事はこの城の中心部、『謁見の間』を通り過ぎなければならない。この広いホールは一歩足を踏み入れると、数世紀前に取り付けられたという絢爛豪華なシャンデリアがすぐさま目に飛び込む。精緻に刻まれた透明度の高いガラスと、大粒の宝石類がぶんだんにあしらわれ、夜の時間帯となればそれはそれは幻想的なのだ。」
城内の仕組みの話から何故か部屋の装飾の話にすり替えて、ナイトメアはうっとりと語る。しかしパロマは小揺るぎもしないクィーンが気になってしょうがなかった。
「あの、その素敵なホールに私が入ったらどうなるのでしょうか・・・。」
「潜入するパロマには、身を潜む場所も無ければ、足音も隠す事も出来ない非情な間となるだろう。何より一番危惧しなければならないのは、女王『ビバルディ』がいる可能性が高いという事だ。彼女に出会ってしまったが最後、そうとなっては君の命は風前の灯。―――ん?あぁ王の事か。あいつは三階にある私室でフラフラさせてあるだろう。一階にいても別にどうって事無い。全くを持って人畜無害だ。」
確かに最上階と思われる場所には一体の黒いキングがフラフラ動いている。
その動き方もなんだか心許ない。


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bkm


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