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捕まった時これを持っていたら、アリスの立場が悪くなる。それは間違いない。
今の彼女がどういう状況なのか一切分からない為、下手な証拠は残しておけない。
(もし取りに来られたとしたら、『西の回廊』を曲がったすぐの部屋。これだけは覚えておかなきゃ。)

パロマは改めて部屋の中を見渡す。
そこは薄暗い乾燥した部屋だった。
ドアから細長く作られた部屋には華奢な作りの机がひとつ、後は小さな子窓が向かいの壁に付いているだけだ。机の上には積み重なった陶器の計量カップと、綺麗に磨かれた精緻な造りの平均秤が乗っている。中央に置かれた木目の奇麗なバインダーには、文字と数字が羅列されたアンティークの紙が挟まっていた。
パロマは机を一瞥して、それから窓を調べに行った。固い窓はハンドル式で、何度か回すと徐々に持ち上がる仕組みになっている。身体を潜らす程の大きさはないので、頭だけだして下を覗いてみる。と、すると急に下から突風が吹き荒れ、パロマの髪を大きく揺らした。
「きゃっ!た、高いっ」
窓の外はかなりな高さだった。城内で階段を上った訳ではないので、中庭が掘り下げられているのだろう。小窓の真下に連なる小尖塔のその尖がった先端が、キラリとこちらに向いている。
「危なかったぁ〜・・。身が乗り出せたら、うっかり滑って落ちちゃったかも。・・・そんな事になったらあれに刺さって串刺しになる所だったわ。」
怖い想像を思わず口に出していたら、中庭にも捜索隊が現れたので、途端に口を閉ざした。こっそりこっそり、気付かれない様に、窓から頭を戻す。最後にチラッと下を覗くと、何人かの兵隊が寄り集まってあっちだこっちだと指さしをしていた。

(ここからポケットを投げたら回収不可能ね。しかも今投げたら、全員こっちを向くわよね、絶対。)
「危ない危ない。」と、パロマはゆっくりと後退し、今度は部屋の中を調べる事にした。
住居として使う部屋では無いと言う事だけは分かる。壁の両側には高い天井まで括りつけられた仕切りがあり、同じ形の白い陶器がギッチリ均等に並べられている。そして、それ以外ない。
何も無いのだ。机の引き出しも、本棚も、小物入れでさえも。言い換えればポケットの隠し場所が無い。


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bkm


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