倉庫 - asteroid | ナノ

01



ピョロー

酷く間抜けな音が、閑静な住宅街に響き渡った。ずっと遠くで、微かに子供たちの甲高いはしゃぎ声が聞こえるが、こちらからするとおまけにすぎない。続けてピョロピョロとおもちゃの笛を吹いていると、隣からうるさいと声がかかった。
ピーと文句の意味合いを込めて笛を鳴かせて、私はいつでもさわやかな空を眺める。
それは、今にも溶けそうな赤と何もかもを支配するような青色が選手交代する真っ最中で、私は思わずピィッと感嘆の音をあげた。


陽炎のまち。
私が住んでいるこの街は、そう呼ばれている。
由来は至ってシンプルで、いつでも陽炎ができているほど暑いから。春夏秋冬の春秋冬がない状態だ。今の時期は特に暑く、ここ一週間の平均気温は30℃前後である。

滝川紗佳は、ここから一度も出たことがない。

それは私の名前だ。ついでに横でしかめっ面をしているのは、幼馴染の相生。名前は確か菊だった気がする。大金持ちのボンボンだ。死ねばいいのに。
まあこいつの事はどうでもいいので、話を戻そう。
私達が住んでいるのは、その街の中心部に位置する住宅街、天使ヶ丘。ニュータウンってやつ。眺めるだけでも少し幸せになれるくらいの、洋風な明るい色の家達がつっ立っている。こいつの家とは隣同士で、私の家の2・3倍は大きい。死ねばいいのに。
今は夕方、もう少しすれば帰宅ラッシュであろうこの場所で、隣の奴は暇を持て余していた。

「沙佳ー」
「何ですか相生」
「暇」
「を持て余した」
「神々の」
「「遊び」」
「・・じゃねえよつい乗っちゃったじゃねえか。暇だっつってんだよ」
「ああそう。ちょっと家でも買ってきたら?」
「・・コンビニに立ち寄るみたいに言うなよ・・」

そうは言っても、こいつの家は4つくらい別荘を持っている。ついでに言うと、こいつ専用の別荘もあるらしい。こいつの別荘だけ爆発すればいいのに。
「あー」と投げやりに叫ぶと、相生は屋根にごろりと寝っ転がり、両手を投げ出した。

「なーんか面白いことねーの?」
「あー、あるね」
「マジか!それはどこにあるんだ!」

一転してガバリと飛び起きた相生に、私は手をひらひら振って適当に相槌を打ってやる。

「宇宙に相生が生身で行ってみればすごく面白いことが起きるよ。お試しあれ」
「沙佳はほんと俺の事嫌いだな!今とても爽やかな気分だよ!」

と言って、再び屋根にバタリと倒れた。
なんだかんだ言っても、こいつは顔立ちだけはいい。顔立ちだけは。男らしい、のではなく少し女顔だ。
女子にはモテる方だが、いかんせん性格が性格なので、深く関わり性格を知った途端離れていく者も多い。
しばらくして、コロリンコロリンと時報の音楽が、街にファンシーさを与えた。6時のお知らせの音である。
と同時に、またまた相生がガバリと跳ね起きた。面倒くさい奴だ。
そいつはやけに目を輝かせていた。こういう時の相生は、面倒くさい事を言うか面倒な事を言うかとても面倒な事を言うかの1択だ。

「そうだよ!俺の家に、こないだパソコンってのが来たんだよ!」
「誰それ」
「人じゃなくて機械な。まだ使ってないけど、マニュアルだけ見てて面白そうだと思ってたんだ。丁度今日から俺用のも来るから見に行くぞ!きっともう届いてる時間だ!」
「は?ちょ、ちょっと!手を引っ張るなていうか触るな人の話を聞けこの野郎!!」




------------------------------
中編あたりのを作ってみたくて、ぐだっと設定を考えてぐだっと書いた。
最近長編ばっかりつくってるからたまには短編ーと思ったけど、話の構成を考えたら短編では収まらなかったでござる
時間軸がおかしいのは仕様です。


prev / next
[ back to top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -