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▼ ひきこもりデイ

 今日のイズチは、ひどい濃霧に包まれていた。雲がいつもより高いのか、分厚くなっているのかわからないけど、とにかくひたすらに寒かった。

「一寸先も霧、みたいな」

 窓を隔てても、家の外に出ても、霧はちっとも薄くならない。吐き出した息さえ凍りつくようで、名前はマフラーに顔をうずめ、

「ーーわっ!!」
「わあっ!?」

 る前に飛び上がった。
 思わず振り返ると、よく見知った少年がにかりと笑っていた。その隣には天族の少年もいる。跳ねる心臓を抑えながら、名前はゆっくりと息を吐いた。

「す、スレイ……それにミクリオ……もう、驚かせないでよ!」
「あはは。ごめんごめん。おはよ、名前。今日はすっごい霧だよなぁ」
「ていうか、どこに行くつもりだったんだ? そのまま進んだら崖から落ちてたよ」
「えっ」

 あっちは崖。そう指さされても、やっぱり濃霧でよく見えなかった。息をするたびに、霧がますます深まっていくような気さえしてしまう。
 とはいえ、私は何も村を散策しに出ようとしていたわけじゃない、んだけど……と、顔を見合わせる少年たちをそろそろと見やる。

「……家の横に作った花壇の手入れをしようと……思ってたんだけど……」
「花壇? それって反対側の?」
「そうみたいですネ……」

 スレイはぽかんとしながら、私が指差す方と真逆を指差した。沈黙する私に対して、それ見たことかとでも言いたげに、ミクリオが呆れ顔を浮かべた。

「来て正解だったね。ただでさえ方向音痴の君が、濃霧の中で歩いたらどうなるか、わかったもんじゃないよ」
「濃霧じゃなくても間違ってそうだけどな、この様子だと」
「うっ……!」

 図星である。確かに、花壇と反対方向に進んで家周りをぐるりと一周することも度々あった。頭では右だ右だと分かっているはずなのに、今も私は左を向いているらしい。な、なぜ……!

「まあまあ。とりあえず、晴れるまで家の中にいようよ。これじゃ、森に出るのも危険だしな」
「……遺跡にも行けなくて暇ってことね?」
「そうともいう」

 スレイは笑顔で胸を張った。相変わらず素直な人だ。少しおどけた様子がおかしくて、私もちょっぴり笑ってしまった。
 そうと決まれば、お客様をもてなさなければ。良い茶葉はあっただろうか。あれこれと考えながら、私はくるりと家の方を向いた。

「どうぞ上がって。お茶でも淹れるから」
「うん、ありがと。……名前?」
「ん? なに?」
「そっちは崖だけど?」
「…………」

 イズチの朝はこんなにも暑かったかと、私は頬を挟んで唸った。


'150207

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