思えば、双子の片割れである彼女は――いつも強かった。
何があっても、諦めなかった。ただひたすらに、がむしゃらに、自分が信じる道に進んでいこうとしていた。

静寂が包み込む崖の上で、小さな風が舞った。海の漣が遠くで聞こえた。僅かな鉄の臭いが充満していた。そっと握り締めていた手のひらをナオは見つめた。
強く握りすぎたのか食い込んだ爪と手のひらに血が出ていた。

「大丈夫。
私も――強くあってみせるわ。貴女の様に…"彼ら"を守ってみせる。
彼らが死ぬ運命だって捻じ曲げてみせる。その代償に――この身が犠牲になろうとも、決して後悔などしないわ。ねぇ、リオ、だから――……・・」

見守っていて。と呟いた声は嗚咽と漣に紛れて消えた。

ブチャラティに「先に行っていて。」と言っておいて正解だった。こんな情けない自分の泣き顔なんて、彼には見せたくないし見られたくない。
ぽたぽたと瞳からあふれ出して零れた涙が頬を伝って、地面に落ちた。

「リオ、あなた、幸せだった…?」

静かに吹いた潮風に問いかけてみた。勿論、答えなどなかった。それでも、ナオは再度問いかける―――幸せだったか、否かを。
また答えはなかった。
変わりに、ナオの背を押すように柔らかく暖かな風が吹いた。僅かに花の香りがした優しい風であった。

「うん、分かったよ。」

―――歩くよ。

歩いて、みんなのところにいくよ。


そうして彼女は歩き出した。




 
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