オムライス事件
飯落としの甲斐もあってか、翌日から等持院はフランクに接してくれるようになった。元々等持院も自炊をしていたらしく、ちょうど良いのでこれからはタカと三人で夕飯を囲むことにした。
そのタカだが、親衛隊長の部屋から帰ってきた後、すっきりとした面持ちで普段通り過ごしていた。話してみると、やけに話が合ったという。隊長曰く、追いかけるうちに同じ少女趣味になったらしく、タカは友人が増えたようで喜んでいた。俺との接触もこうやって話せている事が奇跡なので構わないと、良い方向へ転んだみたいだ。
「真倉様!おはようございます」
そんなこんなで俺とタカとナナとミチルの朝の登校に一人増えた。ウェーブがかった髪が可愛らしい、儚げな美人顔の同級生だ。キラキラとした笑顔でハキハキと喋る彼は鳴滝(なるたき)という。
「はよ」
ネコまっしぐらならぬ、タカまっしぐら。
他に親衛隊持ちが二人いるにも関わらず、社交辞令の挨拶だけしてあとはそっとタカの隣に着いている。
タカ自身にもあまり人前でくっつくなと言ってあるので、顔を合わせてからも俺たちの関係は良好だ。
「ナルちゃん今日も輝いてるね〜」
「うん、真倉様と会話できて嬉しくって」
「青春やな青春、お前がモテてんのが気にくわへんけど」
「ハッ」
「なにわろとんねんお前」
敬語を使うのも敬称もタカにだけなので、彼はタカに恋する乙女として違和感なく溶け込む事が出来た。めでたしめでたしだ。
五人で教室に着くと、読書中だった等持院が怪訝な目でこちらを見ていた。というより最早言葉にするのも面倒臭いぐらいに、大体等持院は怪訝な目をしている。
「・・今までじゃ考えられないな」
「そうなのか?」
この間の席替えでたまたま等持院の前の席になったので、おはようと近寄って挨拶を交わし腰掛ける。目が合うと少しばかり表情が緩むが、強面だな等持院。
鳴滝はタカに一礼してから隣のクラスへと去って行ったようだ。
「真倉が深草達と喧嘩してないのも、親衛隊とも仲よさげなのも、みんなびっくりしてるぞ。・・お前の力は凄いな」
「たまたま引っ越してきた場所が良かっただけだ。慌ただしく片付けして気付いたら、なるべく場所に収まってた」
「よく言えたな」
「本当の事だ。ところで、何の本読んでんだ?」
「答えると思うか?」
「等持院なら答えてくれるさ」
頬杖を付きにこにこと人好きしそうな笑みを浮かべる。
等持院はそんな俺の顔を見つめながら、暫し考える仕草をした後に、いつかの悪人ヅラでこう答えた。
「お前が今日一日語尾にワンを付けたら考えてやる」
こいつ絶対童貞だ。
俺は心の中で、そう確信した。
昼休みになり、等持院と茶山を含めた6人で学食へと出掛けた。弁当でも持ってこようと思っていたのだが、この間のお礼に等持院が奢ってくれるという。
勿論あの後ワンは言わなかった。童貞のクソみてえな提案に付き合ってられるかよ。
昼時の食堂は生徒でごった返しているので、俺は苦労して席を探していた。なんせ6人だ。テーブルで囲むには多い。そう思った矢先、茶山が1テーブル丸々開いたと知らせてきた。
「これが親衛隊の力だな」
「参考になります」
「お世話になりますぅ〜」
やはり茶山、人好きな笑顔で統率力は伊達では無い。タカにはわけのわからん態度を取っている茶山だが、最初の印象と違い元々友人が多かった。恐らく親衛隊だけでなく、友人にも気軽に物事を頼めるタイプの人間だろう。これは才能だな。
「マッキーなにがいい?」
「んー・・・そうだな・・」
ナナに呼ばれて顔を近づける。
ピッピッと手際よく操作して、俺が好みそうな、肉の欄を提示してきた。
「待て安栖里、牧のものは俺が決める」
「え」
てっきり牛丼が食えるのかと思ってたのに。
「俺が奢るんだから当然だろ」
「そお?なら頼むね〜。2バカはどうする?」
「プッ言われてんで〜茶山とアホ」
「あ?誰がアホだどう考えてもこいつとお前に決まってんじゃねえか」
「俺が馬鹿って酷ぇな〜、ま、そんなとこもかわいいけ、ど」
「ヒッ…触んじゃねえよ・・・」
2バカ、恐らくタカとミチルの口喧嘩と茶山のセクハラに傍観を決め込んで、やたらとにやにやこちらを見てくる等持院チョイスの料理を待った。
十何分か経った頃に料理が出揃い、あまりの速さに今頃厨房は修羅場なんだろうなあと想像しつつ、俺の目の前の可愛いフォルムの料理を見つめた。
「なあ等持院」
「なんだ牧」
「何でオムライスなんだ」
「いいから食え」
等持院は何だか嬉しそうだ。
奢ってもらえるので文句は言わ無いが、別段好きというわけでもない。こう言うのはナナが食べると可愛いよな。
「いただきます」
各々頂きますと声を上げてから、目前の料理に食らいつく。周りを包んでいる卵はフワフワ、程よい厚さ、火通しで文句の付けようがない。いや美味い。中のケチャップライスも俗っぽさが無く、多めの野菜と鶏肉が飽きさせ無い歯応えだ。
「うまい」
「そりゃあよかった」
3分の1ほど食べ進めたところで、食堂の入り口がわあっと湧き、凄まじい歓声に包まれた。ちなみに余談だが、俺たちが食堂に入ってきた時もそこそこに食堂が湧いている。なのでそういう事なのだろうと興味も無くカトラリーに手を戻すと、階段へと向かう途中に俺を見つけたそいつはやってきた。
「や、久しぶり、牧くん」
肩を叩かれて振り返った所に居たのは、明らかに他の奴とはオーラの違う異国の王子様こと、西木津聖だった。