かわいい泣きぼくろ







頷きつつ、続きを促した。

「じゃあ全員が芸能人って扱いなんだな」
「簡単に言えばそうだ。それと予備知識だが、親衛隊人数が一番多いのが現会長の月瀬誉、次に副会長の西木津聖、と、生徒会のメンバーが続いている。というのも、生徒会役員の選出方法が、阿呆らしい話だが抱きたい・抱かれたいランキングで決まるからだ。親衛隊が多い方が、その選挙に有利だからな」
「ふうん。年会費とかあるのか?それ」
「阿呆か、無いに決まってるだろ。親衛隊持ちはあまり人数がいないが、親衛隊と関わることすらしない奴だって数人居るくらいだ。基本的に歓迎されるものじゃない」

紙とペンを、と言われたので、どこから取り出してきたのかタカがチラシの裏と紺色の綺麗なペンを渡してきた。受け取った等持院はというと、スラスラと図解で説明を続ける。

「そうだな、俺がお前を好きだったとする」
「等持院が、俺を」

一言一言区切って復唱すると、等持院は怪訝な顔をした。

「例えだぞ、誤解するな」
「はは、照れるな。わるいわるい、睨ま無いでくれ。それで?」
「だが、お前は真倉が好きで、よくボディタッチをしていたとしよう。そこで俺はこう思うわけだ、あ、そのパリパリ掃除するなよ、食べるから残しておけ」
「はいはい」


「・・真倉が邪魔だ、と」


話の合間にもんじゃのパリパリを残しておけと言われ、柔らかな空気を作り出してから、人一人殺していそうな声色で等持院は言った。顔もお得意の無表情、鬼と言われても遜色ない。
タカも俺の隣でビクッと肩を跳ねさせていたので、等持院の演技力に感服した。

「…こええよ」
「そういうことだ、くれぐれも身辺には気をつけるんだな」

そう呟いて食事を再開した。よく見れば目尻が下がっているので、どうやら笑われているらしい。わかりにくいやつだ。

「お前らにはいるのか?」

等持院の動作に習い、フォークを口に運ぶ。流石に小さいコテまで持っていなかったので、多少掬いづらいものの、充分に代用できている。

「なんだ、知らなかったのか?そこの真倉も、茶山も、安栖里も、深草も、俺も親衛隊持ちだぞ」
「八方塞りじゃないかそれ?誰ともベタつけないじゃねえか、いや、いらなかった、こら、タカ、抱き着くな」

ベタつけないの一言に、タカがそっと身体を寄せてきた。お前、美形じゃなかったら殴ってるからな。

「公認しているのは茶山ぐらいのものだがな。安栖里と深草は公認するほどの人数でもないが、仲良くしているとは聞いている…問題は真倉だな」
「どういうことだ?」
「真倉は完全放置だ。親衛隊を。彼らの愛は貨車に追いかけられるジェムースのように、それはそれは早いぞ」

今度こそ等持院はわかりやすくクックッと低く、意地が悪そうな顔で笑ったが、・・そのギャグはわかりにくいぞ。

当のタカはというと、何度見たかわからない、しょぼくれている。理解しやすいタカの表情筋にまたかと眉を下げると、非常に申し訳なさそうにこちらを一度ちらりと見た。

「確かに牧は会長に匹敵する人気がつきそうではあるが、転入生だ。このままだと、お前にだけ夢中な連中は黙ってないんじゃないのか?」

しかしそれを甘く見逃してやる事などなく、等持院は追い討ちを掛ける。
これは俺のためではない。
こいつは後から湧き出すだろう問題を事前に防いでおきたいらしい。

「タカ、どうする?」

俺もその案には賛成だった。
肩に手を置いて言ってやれば、気まずそうに視線を揺らがせたあとに、こう応えた。

「・・いずみも、居てくれるなら」

馬鹿野郎それじゃ火に油だ。


飯を食った後、等持院と共にタカを玄関へと運び、玄関の外に追い出した。タカは捨てられた子犬のようにこちらを見ているが甘くなんてしてやらないぞ。

「思い立ったが吉日と言うだろう、さっさと行け」
「…いずみぃ……」
「話してくるまで部屋に入れません」

俺の言葉に観念したのか、とぼとぼと親衛隊長の居るだろう部屋へと歩いて行った。なんでも、無理矢理この学園で使っている名刺のようなものを渡されたので、電話番号と部屋は知っているらしい。

タカを追い出したら片付けに取り掛かった。等持院はてきぱきと動いてくれ、程よく会話も交わせるようになった。やはり、仲を深めるには飯を囲むことが、一番良いらしい。

「…牧」
「ん?」

そうしてソファに二人腰掛けて、タカの帰りを待っている。つけっぱなしのテレビは最近増えてきたクイズ番組の声を響かせており、見入っていた俺は視線を等持院に戻した。

「お前は過保護そうだから、最終的にはついて行くと思っていた」
「ああ・・等持院、」

名前を呼ぶと、視線がテレビから俺へと移る。

「俺だって好きなやつへの嫉妬ぐらい理解できるさ。そうだな、俺がお前を、好きだとしよう」

等持院は怪訝な顔をした。
いや、お前、自分で言っといて酷いな。

「例えお前が別の誰かを好きでも、俺はお前には怒らない。お前の好きなやつに、お前に触れる、俺じゃ無い他のやつに、怒りが湧く。それは本能的なものだ。・・簡単には止められない、そうだろ?」
「恋愛はした事は無いが、まあわかるな」
「・・色男の癖に無いのか?そりゃあ驚きだ。トマースもびっくりして路線から外れちまう」
「人のギャグにこじ付けるのはやめてくれないか?センスが無い、そう言いたいんだろう、悪趣味だぞ」
「色男は否定しないんだな」

はは、と軽く笑うと俺の言葉にカチンときたのか、等持院が胸ぐらを掴みあげてきた。

「よく見ろ、お前よりよっぽど、色男だぞ俺は」

シルバーフレームの眼鏡を外して、ぐいと顔を近づけられる。迫力のある、切れ長な目で、ただ何を張り合いたいのかわからずに、ついつい思ったことを口にしてしまった。

「泣きぼくろ、可愛いな」

左眼の目尻にある泣きぼくろを指でなぞると、突然等持院は俯いた。

「・・どうかしたか?」
「いや、呆れた。悪い、何だろうな、・・お前と居ると、繕う事が出来なくなるみたいだ」

等持院は心底怠そうな顔をして、ため息を吐いたのだった。





   (prev) / (next)
    log       
 top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -