ナナとミチル





漸くして西木津と別れた後、西木津が言っていた通りに、俺の白のカードキーを扉に翳す。するとピピッという機械音と共に、扉のロックが解除された。

「………お邪魔します」

まだ春休みなので帰省している人間も多いとのことで、この部屋も同じく、住人はまだ居ないようだった。
玄関から廊下を抜けるとリビングが広がっており、簡易的だがキッチンもある。奥に位置する2つの扉は恐らく、それぞれの自室ということだろう。廊下の途中に風呂、洗面台、トイレと、充実していて便利そうだ。

「っと部屋は…こっちか?」

リビングに物も殆ど置かれていない。ある物といえば、ティッシュ箱、それから灰皿ぐらいで、装飾品の類は嫌いだから助かったとも言える。
取り敢えず右からでいいだろと扉を開けてみると、ベッドとダンベルと本が幾つか置かれていたので同室者の部屋だったようだ。部屋の臭いは洗濯物そのもので、汗臭いやつでもないらしい。これは当たりの部類に入るのだろうか。
もう片方の部屋の扉を開けて、すでに届いていたらしい荷物、とはいっても俺も荷物は少ない方なので、ダンボールから備え付けられた本棚に数冊の本を置き、愛用の枕、パソコンを机に。キッチンには持ってきた調理道具を幾つか。
自室の奥にあるベランダを覗けば、広がるのは緑、これも自然の色でホテルならばああ素敵だなと言えたかもしれないが、お後3年間ここで変わらぬ景色を過ごさなければならないのだ。

「やってらんねえな、本当」

普段は吸わない煙草をダンボールから取り出して咥え、安いライターで火を灯し深く吸う。
リビングから借りてきた灰皿に灰を落とし一服していると、ピンポーンと、一部屋ごとに備え付けられている来客を知らせるインターホンが鳴った。

「監視カメラでもついてんのかここは…」

火をつけたばかりの煙草に少しの名残惜しさを感じながら、先端をぐりぐりと押し付けて火を消した。ベランダからリビングを抜けて、部屋の扉を開けると同時にゴンッという鈍い音が聞こえた。

「ぷ、ダッサ」
「いったいわ!どんだけ勢い良く開けてんねん!」
「いや、お前がそんな所に立ってっからだろ」

痛そうに頭をさすりながら現れたくるりとした金髪の男と、皮肉な笑みを浮かべる紫色のショートカットの小柄な男とが、呼び鈴を鳴らした相手らしいが二人とも先ほど会った西木津に劣らず美形だ。とはいっても、オーラの無さから西木津に軍配が上がるのだが。

「はじめまして、俺は隣の部屋の安栖里那奈(あせりなな)。よろしくね」
「ああ、よろしく頼む」
「俺も同じく隣の部屋の深草道流(ふかくさみちる)って言うねんや。よろしゅう」
「よろしく」

玄関先で差し出された手と自己紹介に応じながら、何故またこの部屋にという疑問を持ちかけてみる。

「この部屋の住人と仲良いのか?」
「いんや。全くや。普通に帰省しとる筈のその住人の部屋から物音聞こえたし何かなおもたら、これまた珍しい外部生、しかも」
「飛び切りのイケメンが居て、もうびっくり。会長と並ぶんじゃないの?」
「会長にゃ会った事ねえが、光栄だな」
安栖里は小柄なのに妖艶というか、意思の強さがよくわかる瞳で俺に笑いかける。
「荷解き手伝うよ。その後、ご飯でもどう?」
「生憎荷解きは終わったんでな。少し休んでから、一緒にさせてもらっていいか?」
「いいよいいよ、ってことで」
「お邪魔しまーーす」





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