酒は飲んでも呑まれるな(委員長×会長)





ざっとあらすじ

会長の家のパーティで酔って脱ぎ出した会長を風紀委員長が連行します



桐生 巧(きりゅう たくみ)
朝比奈 豪(あさひな ごう)


現在、桐生家主催の社交パーティーが開かれている。家の方でも関わりの強い役員らと、桐生と対等に並ぶ家柄の風紀委員長、朝比奈ら、他数人の学園の生徒も招かれている。改めて自分が金持ち学園に通っている、という自覚と共に、その学園の長である、誇りを持って、ネクタイを締めた。

ライトグレースーツに、敢えて淡いベージュ色のネクタイを合わせ、ベストはスーツと同色のライトグレー。シャツは薄青で、靴は明るい茶。
俺じゃねえと似合わねえ、と言わんばかりの顔持ちで生徒会長、こと桐生巧は、フロアの扉を開く。途端に歓声が沸き起こり、誰もが桐生を見、ほうと感嘆の息をつく。

「この度は―――」

始まった挨拶も、終始参加者の視線を釘付けにし、桐生家の後継ぎとして鼻が高い、との評価を得て、やがて時は交流の時間となる。
絶え間なく交わされる自己紹介の嵐、顔と名前を頭に叩き込むこの瞬間こそ、最も無駄で、クソったれな脳みその活用の仕方だ。と桐生は笑顔の裏で思っていた。必要な事である、そんなものはわかっている。だからこそ、無駄だというのだ。
絶対王者として上に君臨するには、好きな事をしていればいいわけじゃあない。才能、努力、愛想、必要不可欠な要素は数えれば星の数ほどある。その中でも一番桐生が重要視していたのは、記憶だ。
どれだけ人付き合いが上手くとも、俳優の様に演技がうまかろうと、必ずボロの出る、頭の引き出し。それを鍛えない事には、他者からの過大な評価は受けれども、自分がてっぺんに立つことは出来やしない。
産まれてすぐから強要されてきた絶体的な王たる振る舞いを、後付けする怠惰を桐生は過ごした後、漸くひとりふらりと料理に手を付ける。と、すぐ横には副会長と会計の姿が。

「ご立派でしたよ、巧」
「会長ったらやあーっぱどこいっても会長!って感じで、尊敬するよホント」
「当たり前だろうが」

桐生はフン、と堂々たる笑みで言い放つ。初等部から長く付き合ってきた副会長も、あなたはいつまでも変わりませんね。とにこやかに感想を述べている。

「たまーにああやって会長のきちっとしたところ見ると、生徒会室にセフレ連れ込んでるのも許せちゃうね☆」
「おいおいおい、その話は」
「それとこれとは全く別です」

会計がうっかり副会長の苛立ちの元を踏み抜くと、途端に後ろに花を咲かせていた筈の副会長からブリザードが吹き荒れる。というのも、副会長は潔癖症で、特に性行為については死ぬほど口うるさいのだ。

「巧、あなたったらまた、私があれだけ言い聞かせたのに、生徒会室に連れ込んでいるんですか?」
「いや、俺だけじゃねえぞ!」
「ちょっとお会長!売らないでよ!」
「そういう問題じゃないですよね?いえ、会計、あなたも勿論、お説教しますけれど」

にこにこと人好きする笑みが恐ろしく見える。
桐生は顔を引き攣らせ、標的が会計へと移ったところで、ウエイターが配っていたドリンクに手を伸ばす。スピーチ続きで喉が乾いていたので、喉を通る気泡性のあるフルーティな香りに、桐生は舌鼓を打った。



「・・・あっちいな」

ぱたぱた、と手を己に向けて、風を仰ぐ。
空調も何も変わったようには思えないが、身体の芯からじんわりと広がる原因不明の熱、それに加えて、記憶力には自信があるはずなのに、親衛隊隊長の話が右から左である。
桐生は耐え切れずバサリ、とジャケットを脱ぎ、隣の副会長にそれを渡す。

「巧・・・?」

きょと、と不思議そうに副会長は桐生を見て、桐生の名前を呼ぶと、桐生は副会長の頭をぽん、と撫でた。

「ん、いい子だ」
「・・・・!?」

眉間に少しばかり眉を寄せて口元は緩んで、そうまるで、愛おしくて仕方が無いときのように、慈愛に満ちた微笑みに、普段とは天地の差のある温和な微笑みに、副会長は固まった。
驚愕の表情で桐生の隣に居る副会長のそのまたすぐ隣、会計は副会長に話しかける。

「こんな会長いままでみたことあるの?」

会長と付き合いが長いと聞いていたので、問いかけてみたのだが、当の副会長はいいえ、とゆっくりと首を横に振った。

「一度もありません・・・、どうしちゃったんでしょう」
「どうもしてねえぞ?副・・・ふっ、ホント心配症だな」
「あらあらそんなに私の頭を撫でて・・・会計、この巧そんなに悪く無いですね」
「チョロいよ副会長ぅー!」

されるがままに撫でられている副会長に、会計はどーしちゃったのさ、もう!と副会長をぽこぽこと叩いた。

「こら、会計」
「はいっ!??」

その様子をみた桐生が、標的を会計へと変える。いやに良い声で呼ばれた役職名に、なぜだか背筋がぴんと張る。

「叩いちゃ、ダメだろ?」

あやすようなほほ笑みには後光さえ差して見える。

あれ、これ、いつもの俺様な会長じゃないじゃん!

という心の叫びは、撫でられた頬にどぎまぎと吸い込まれていった。
桐生が持つそこはかとない色気が、何だか今日はダダ漏れだ。
今までも事後の後に会ったりした時に、こんな桐生の姿を見たことがある。
そうだ、あの時とまさしく同じで、堅苦しそうに締められたネクタイは緩く解かれ、胸元のボタンも突起が見えてしまいそうなほどに開いていって・・・・って、

「会長なにし「っバカお前何脱いでんだ、」・・委員長!」

自らフォーマルな服の戒めを緩めていき、ネクタイはベストに掛かるほどに、ボタンも今にも胸元が見えそうなほどに開けていく桐生の手を、偶々通りかかった風紀委員長こと朝比奈が掴む。パーティには来ていたものの、桐生同様挨拶に追われげんなりし、ゆっくり外をぶらついて帰ってきたところに、飛び込んできた我が学園の生徒会長の奇行に、間に合って良かったとの安堵の息が漏れる。

「よう、朝比奈」

桐生は楽しげに笑いひらりと朝比奈に片手を上げる。
いつもの風紀の腕章のついたカッターにスラックス、という装いではなく、ネイビーの細かいストライプの入ったスーツに、清潔感のある白のシャツ、ペイズリー柄の紅のネクタイ、黒の革靴。桐生に引けを取らぬ、男前だ。
その朝比奈は桐生の様子を見ながら、訝しげな表情を浮かべ、ほんわりと穏やかな顔で佇む副会長から桐生のジャケットをひったくる。

「ようもクソもあるか、お前、ちょっと来い」
「な、んだ、よ、オイ、」
「いいから黙ってついて来い」

グイと強く桐生の手を引いて、朝比奈はフロアを後にした。




「って、」

乱雑に連れてこられたゲストルーム、桐生の勝手知ったる場所であるが、幼き頃から招かれることの多かった朝比奈はもう桐生家の構造など熟知している。
投げるように部屋の中央で手を離せば、いてえなあ、と間延びした声で桐生が呟く。

「ハァ・・・、飲んだろ」
「あ?飲んでねえよ」
「飲んだやつは皆そう言うんだよ」

ほら、ちゃんと着直せ。言葉と共にジャケットを桐生の方に投げると、それをキャッチした桐生は、ジャケットをそのままテーブルの上に置いた。

「誰も置けとは言ってねえだろ」
「あちいんだよ」
「は?」

先程の続き、とばかりに、ベージュの淡いネクタイをしゅるりと解く。そのまま二三歩下がった桐生は、ぼすんとベッドに腰を下ろした。掻き上げセットした髪を無意味にもう一度掻き上げて、む、と尖らせた口のまま、もう一度同じことを口にする。

「あちい」

ベストのボタンを解き、脱ぐ。
ぱさりとシーツの上に落とされたそれを見て、おいおい、マジかよ。と面倒くさそうに朝比奈は近寄ってベストを拾い上げた。

「それぐらい我慢しろ」
「我慢できねえから脱ぐ」
「・・・・はあ」

(笑い上戸、泣き上戸につづいて、脱ぎ上戸ってやつか?これは)

執拗に熱い熱いと口にする桐生に、このまま主催の男の奇行を放っておくわけにもいかない朝比奈は、スマホを取り出し副会長に連絡を取る。

『悪い、ちょっと遅くなる』
『わかりました、上手く伝えておきますね』
『ああ』

唐突に消えた主催のことも、人好きするあいつなら上手く取り持ってくれるだろう。
これで学園を含めた面体は保たれた、が、


―――さて、こいつをどうしたものか。


電話をしていた為にクセで桐生に背を向けていた朝比奈が桐生の方を振り返ると、ぎょっと目を見開いた。この男、ボタンを全開に開け広げた上半身に留まらず、下半身まで脱ごうとしている。

「脱ぎすぎだ・・、風邪引くぞ」

慌ててカチャカチャとベルトに手を掛けている手を止めに掛かる。しかしながら、その手はぱんと振り払われた。

「あついから脱ぐんだよ」
「それしか言えねえのか、お前は」

桐生の変わらない態度に朝比奈はつい額を抑え呆れてしまう。
つんけんとした態度は普段通りである筈なのに、おぼつかない手つきと同じ言葉の繰り返しが、酔いを物語っている。滅多に見ることの出来ない、ある意味で、桐生の弱い部分を初めて目にしたものの、それを見た特別感も何も感じない。面倒くせえ野郎だ、と、思う反面、頭を締めるのは視覚的な暴力だった。

そもそも、朝比奈の初恋は幼少期の桐生である。
つんとした意志の強い瞳、ぷくりと程よい膨らみの唇、白い肌。色素が薄いのか、半透明にきらめく髪が、印象的で一体何処のかっこいいお姫様かと錯覚した、そう、それほどに、桐生巧という男は美形であるのだ。今でこそ俺様ヤリチンの響きの悪い二つ名がついてはいるが、毎年行われる抱かれたいランキング、が物語る通り、格好いいのだ。不敵な笑みが映える中性的な顔立ちに、口元の黒子。スラリと長い手足に、筋肉の付き方もしっかりとしており、引き締まるところは、程良く、引き締まって。こんな無粋な感情を抱いているのは、自分だけだと理解はしているが俺様なその姿こそ、屈服させたい、犯したい、と思わせる。桐生はそんな空気を孕んでいる。

成長した今も、幼き頃の面影を残す髪色に、時折思いを馳せる。
恋したあの時と、容赦のない下ネタ攻撃に冷めたあの時、けれど結局、一目惚れは一目惚れ。
今も尚惚れているなんて、そんなロマンティックな話をしたいわけじゃない。
ただ朝比奈の好みのストライクゾーンの中心に居るのが、桐生なだけだ。

そんな男の見たくてたまらなかった肌を、禁欲的なフォーマルな服の隙間から覗けるなど、この上ない、誘惑だ。手を滑らせて、胸の突起に触れ、指先で捏ねれば、反応はしてくれるのだろうか。そのまま、下降し、露骨に反応する雄の部分を握れば、切なげにどんな、声を。上げるのだろう。

「朝比奈」

呼ばれてハッと顔を上げる。
あつい、とうわ言のように呟く桐生の体温が移ってしまったのか、煩悩に、浮かされ意識がそちらにいってしまっていた。なんと情けない、と軽く息を吐いてから、何だと返答する。
慌てて止めるために座った場所だからか、やけに桐生と距離が近い。

「どうし、」
「ん、・・・お前けっこう、冷てえな」

こつん、と肩に預けられた額。
冷えきっているのは、ジャケットだけだ。フロアの冷気を十分に吸い込んで、そのままだったからだ。そんな僅かな温度でも、今の桐生は欲しくてたまらないらしい。
横顔から覗ける口元は弧を描いている。

堪えろ。ここで堪えずにどうする。
自制心をフル活用して、そのまま、口付けてしまいそうな自身の身体を抑えこむ。

「んー・・・・」

再び隣で唸り声、とカチャカチャとベルトが為る。もう勘弁してくれ、と、ついに意を決めた朝比奈は桐生をシーツに倒した。

「暫くじっとしてろ・・ったく」

朝比奈が自分の首元のネクタイを解いて、軽く掴んだ手と手を緩く縛り上げると、桐生に非常に嫌そうな顔をされた。もごもごと手首をすり合わせて抜けようとしているが、そんなに簡単には外れない。加えて、朝比奈はその対の方のネクタイの端をベッドの柱へと結びつける。

「おい、なにすんだ、、あさひな」
「なんもしねえよ、お前があついあつい、って喚くのが治ったら、すぐに解く」
「あつくねえ」
「うそつけ」

白々しすぎる安直な返しに、間髪入れずツッコミを返す。

「・・・未成年の癖に酒なんて飲むんじゃねえよ面倒くせえ」
「ハハ、その台詞だと、お前、おっさんみたいだな」
「何笑ってんだ露出狂」
「あっちいんだから仕方ねえだろ」

フン、と桐生にドヤ顔をされても、阿呆らしさに朝比奈からため息が出る。
シーツに寝そべらせた桐生の肩に手を置いて、起き上がれないようにだけしてから、朝比奈はスマホを弄る。その後の連絡と段取りとが副会長から送られてきており、返信を打つ。
その横で、桐生はどうにかしてこの熱を吐き出せないか悩んでいた。
縛り上げられた両手、もぞもぞと身体を動かしても、暴れんなと肩を押される。なんだってこいつは、俺を厄介者のように扱うんだ、と今度の風紀の備品の請求書は全部却下にしてやろうかなんて邪な復讐心を抱きつつ、微妙にだけ緩められたベルトを、ぐいぐいとシーツに擦り付けた。
微妙に下がるスラックスに、じれったい気分だ。

昔から、親にお前は酒を口にするなと言われてきた。
年齢を守れというそのままの意だろうが、この歳で飲んでるやつなんてゴマンと居るし、何より完璧な桐生が酒に弱い、なんて、弱みのようで、恥ずかしい。克服の為にも、何度か飲みたいと言ってはみても、機会が無いまま今日を迎えていた。それが、偶々、殆どが大人だからと提供されていたスパークリングワイン一つで。だらしない姿を晒している。
積み重ねた常識だらけの頭よりも、熱に浮かされ、脱いで開放されたい、との気持ちが勝ってしまい、普段から頭を占める理性だらけの意志とは関係無く、一点の欲に正直に動く。

しかしながら眼前の男に熱の解放を阻まれて。
うわ言のようにはなせあついと呟いても、潔白な装いで、ああ、そうだ水いるか?なんて呑気に訪ねてくる。
縛られて5分弱、うずうずと身体の底から湧き上がる熱に、桐生は我慢の限界だった。

喉をつっぱらせて、スマホの画面から視線を外そうとしない、男を呼ぶ。

「あさひな」
「なんだ」
「あさひな」

「だから何っ・・・」

はあ、と蒸気した熱を口から吐き出す。桐生が現在表現できる全開で、限界と視線で乞うように訴えれば、ゴクリと朝比奈が喉を慣らした。

 ≡≡≡

何度も何度も名を呼ばれて、振り返ってみると、桐生が他に見たことがないほどに、扇情的な面持ちで朝比奈を見つめていた。前が開けたワイシャツ、ほつれたように中途半端に開いたベルト、スラックス、少しもがいたのか、濃紺のボクサーパンツが半分ほど覗いており、自分でやったことなのに、縛られ頭上に掲げられた桐生の両手が、厭に朝比奈の支配欲を煽る。

(やばいな、これは)

思わずして鳴った喉に、冷や汗が頬を伝う。
ゾクゾクと背筋を駆け抜ける、青白い熱が、己のあらぬ部分を奮い立たせる。

―――同級生だ。男同士だ。幼馴染だ。風紀、委員長だ。

そんなことは、どうだっていい。


「・・・脱がせて、くれ、」

顰められた顔から強請る声が発せられたと同時、朝比奈は頭の何処かがプツンと切れる音を聞いた。





「ンッ・・・、!」

朝比奈が胸の突起に舌を這わすと、桐生は口から飛び出そうになった喘ぎを抑えた。ぺろ、ぺろと数度そこを舐めれば、ぴく、ぴくと素直な反応が返ってくる。想像していたよりずっと、感度が良さそうだ。
吸い上げれば片目を瞑って耐え、もう片方も指先で転がしてやると、桐生はは、と息を吐く。それこそ、あつい、と言えばいいような、熱を孕ませた吐息だ。

「胸、じゃねーよ、下、」
「ああ、わりい」

脱がせろと頼んだだろう。そう言いたげな視線で、朝比奈を催促する。頼まれるままに、ベルトを完全に解き、スラックスをずり下ろせば緩く勃ち上がった桐生の屹立が目に入る。

「感じたか?」
「・・感じてねえ」
「バカ、見えてんだよ」

言いながら桐生の屹立を親指の腹で軽く刺激する。こすこす、と快感にもならないそれを数度繰り返して、胸への愛撫を再開した。
ずっと触れたくてたまらなかった突起、体育の時に何度覗き、おい、雑念、とかき消したか回数も覚えていない。

「は・・・、あさ、・・・ひな・・・、」

段々と波に乗って感じ始めたのか、固くなってきた屹立を握りこむ。パンツ越しに優しく扱いてやると、桐生はまたんンっ、と、悦ばしい声を上げる。それが楽しくて胸を愛撫しては扱く、を繰り返していると、桐生朝比奈をが咎め睨みつけて、膝でグイグイとやめろの仕草をした。
朝比奈はなんなんだよ、と一度手を止めて桐生と顔を付き合わせる。

「・・・・・」
「言いたいことあんなら言え」
「・・・下着も脱がせよ、あっちい」

何が気に食わないのか聞いてみれば、下着も一緒に脱がせて欲しいらしい。
今更解けやめろの言葉を言うのであれば、後戻りは出来ないほどに興奮している自身を口に突っ込んでやろうかとでも思っていた朝比奈だったが、なんともいじらしい。

「・・ふ、それしか、言えねえんだな」

懸念するような出来事でもないので、破顔してそう言ってやれば、ん、と満足そうに頷かれる。
この動作が誘っているとは、微塵も思っていないのだろう。

傍からそうわからせる、罪な男の振る舞いに触れることで、
朝比奈は背徳感に悦を見出し、口角を上げた。

(どうせなら、こいつを乱れさせてやろう。)

やましい事を意図してではないが、桐生の手は桐生の頭上で一つに括られてしまっている。自身じゃどれだけもがいても取れそうにないそれに、今、朝比奈ができることは、桐生が嫌がりそうなこと、ただひとつだ。

とはいえ、流石に縛り上げて桐生の口に突っ込んではレイプじみてしまっている。その写真でも撮れば、この先ずっとオカズには困らないだろうが、イコールで、恨みを買うことになるだろう。
どうせ明日覚えているか、なんてわからない。
けれどもし覚えていたのなら――嫌な記憶より、気持よかった、の一言で終わらせられる記憶の方がいいに決まっている。

「は・・・あさひ・・・ッン、」

下着から取り出した桐生の屹立を口に含んだ。
気持ちよさ気に先端からぷくり溢れ出ていた雫をまずは吸って、朝比奈の舌は桐生の裏筋をべろりと舐め上げる。それだけでゾクゾクと下半身から痺れがせり上がってきて、たまらず、桐生は息を吐いた。

そのまま、数度べろべろと大きく舌が上下して、桐生が身を捩ると、面倒臭くなったのか、朝比奈の口はすっぽりと桐生自身を包み込んだ。生暖かく、粘膜に包まれると、今にも出してしまいそうになる。早漏だな、なんて笑われたとしても、酒に浮かされた桐生にとって、ある意味で拘束されてのフェラ、というのは、興奮材料でしかない。
じゅ、じゅ、とわざとらしく音をたてて朝比奈は吸い上げる。まるでチワワの後孔に突っ込んだ時のように、きちんとした締め付け――この場合だと朝比奈の口の締り、それから、唾液の出し方、また後孔と違う、舌というオプションは、どうも絶頂をそそのかす。

(こいつなんでこんなに、うめえんだよ)

びくと小刻みに感じて、腰が跳ねるのを止められない儘、ぼんやりとした頭で桐生は考え、やがて喘ぎ声を抑えつつ口を開いた。

「ハ・・・、ひと、のモン、世話すんのが趣味か、」

随分と皮肉な言い方にはなってしまったものの、朝比奈には本意は十分に伝わっていたらしく、上下上下と動く口のスピードを早められ、桐生はあ、と情けない声を漏らした。

「は、は、あ、・・・・ッ、やめ、イキたく、ね、」

なんか、言えよ。

咥えているのに、無理にも程がある、と自覚していても、拘束された両腕をがたがたと揺らしては、朝比奈の端正な顔が動くのをただただ見ている。情事の時は低く甘い声だと親衛隊が騒いでいた、その唇には、今俺のモンが出入りしていて。

「ンッ、吸う、な、バカ、」

また、音をたてて吸われると、腰を引っ張られるかのように、気持ちよさがじんと身体を駆け抜ける。精液を絞りとるかのような妖艶な動き、何より、同じようおな勝ち組の風貌の男が加えているという、背徳感が、堪らなく、いい。

「っ、イ、く、・・・離せ、イ、」

(やべえ、イくのに、)
(このままじゃこいつの口ん中に・・・)

「――ッ!!!、」

は、とイった余韻に浸りながら口を大きく開けてみると、朝比奈は至極当然のように、桐生の精液を溜飲して、口元を拭っていた。




「ハッ・・・――ッ、!ん、」

朝比奈の上で桐生の身体がしなる。ビュクビュクと吐き出された朝比奈の精を最奥で受け止め、イく為に力んだのだろう、思わずして押さえつけられた腰に蕩けた表情を浮かべながら同時に達した。

「・・・は・・・、きりゅう、大丈夫か・・・?」

朝比奈は肩で息をする桐生の頬を撫でる。
目尻に溜まった涙の分だけ、凶悪な朝比奈の一物が桐生の中をえぐったのだから致し方ない。どころか、自分が泣かせた、と思うと、その雫すら愛おしく思えてしまったりもする。

未だ縛られた儘の桐生の腕は、あつい、と最中に脱ぎ捨てられたジャケットのみを羽織っていない朝比奈の上半身の前で佇んでいる。手のひらの先で、申し訳程度にシャツを握られているのも、皺になるとすぐに予想できるのに今の朝比奈には咎めることが出来ない。

「だいじょう・・・」

「桐生!?」

何か言おうと口を開いたその瞬間、力尽きたように、桐生はぽすんと朝比奈に身体を預けた。
肩口にかかる男一人ぶんの体重に、繋がったまま、腹筋に自信のある流石の朝比奈も後ろに倒れこむ。

「お、い・・・寝たのかよ」

傍らですうすうと聞こえる寝息に、とんだ大物だ、と朝比奈はくしゃりと桐生の頭を撫でた。




「覚えてねえ」

「なにも?」
「なにも」

翌日、すぐに学園に戻り、食堂で鉢合わせた副会長らに問われた桐生は、酔っ払って脱いだことなど覚えてないと堂々と宣言した。その堂々すぎる表情に、副会長はええ、と少しほろりと涙を流し、もう撫でてはくださらないのですね・・・等とほざいている。

「どうしちまったんだコイツは」
「いや〜会長って罪なオ・ト・コ!」

会計の煽りにすかさず絞め技をかまして痛い!との叫び超えをBGMに、改めて桐生は自分の記憶を辿ってみるが心当たりなど一つとしてない。シクシク泣く副会長は気持ち悪いし、ギブ!ギブだから!と助けを乞う会計もまたうるさい。
なにがどうなったってんだ。
と桐生がきょとんとしていると、一般生徒が飯を食べる一階から歓声が湧き上がる。役持ちが来たのだろう、階段を上がってきた男を目にした桐生は、思考を止めた。

「よう、桐生」

爽やかに微笑む、風紀委員長の朝比奈豪だ。
男前な顔立ちに、男前な体つきは誰もが羨むそれであるが、なんだか今日の朝比奈は、やけに甘ったるい視線を送ってきているような気がしなくもない。

「・・よう」

なんとはなしに負けてたまるかと挨拶を返せば、桐生はぽんぽんと、二度、頭を撫でられる。

「身体平気そうだな」

「・・・身体・・・、?」

実を言うと、桐生の昨日の記憶が、全く無いのは半分嘘だ。
夢か本当かわからない、微睡んだセックスの記憶だけは、しかと残っている。

ただ夢だろうと思っていた。相性は抜群で、自分が犯され果てには中に出される熱を受け止め途絶えた記憶など、現実であっていいはずがないというのに、それなのにこの態度は。

「――ッ朝比奈、まさか」

「しー。知られたく、ねえだろ?」

焦ったような表情の桐生に、朝比奈は酷く落ち着いた様子で、悪戯な笑みを浮かべた。


<酒は飲んでも呑まれるな>



===
未成年の〜飲酒は〜法律で禁止されております〜
(それでも好きなんだ酔いどれセックス)
会長が家のパーティで酔って脱ぎ出して風紀委員長が連行するのって萌えるよね、という七尾さんの呟きからでした。
スーツを着る会長と委員長・・・尊いですよね・・。






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